空想カタルシス【ars S.S】 (ページ18)

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18.スイッチ。ページ18

「翔ちゃんの理想って女の子も出会い方も、どっちももう理想どころの話じゃないよ」
「...意味わかんないんだけど」
「自分の理想のタイプの女の子と、ドラマみたいに出会うなんて妄想の中だけの話だよ」

誰もドラマみたいに出会いたいなんて言ってないんだけど…。

けど、自然に出会いたいって、そういう事になんのかな。
三十路も過ぎて、現実見てなさすぎる？俺。

「それに、翔ちゃんが言うような女の子はなかなか居ないよ」

分かってるよ。
そんな娘、居ない。
ただの『理想』だ。

「翔ちゃんの言うよーな女の子とレモンの出会いをするなんて、妄想も越えて空想だよ！」

まぁそら、そこまで行くと空想だな。
幻想だわ。

「翔ちゃん、そんな理想を追ってたら恋なんて出来ないじゃん。...あっ、もしかして高校の頃の失恋、引き摺ってんの？」
「...引き摺ってないわ」
「まさか、翔ちゃんってまだチェリーボ...っ！」

いつかと同じように雅紀の口を手で塞いだ。
いくら空いてる電車とは言っても、乗客は駅に停まる度に増える。

俺らはそんな増えた周りの乗客から、訝しげな顔でジロジロと見られた。
何故か女子高生達はキャッキャ言って喜んでて、俺が解せない顔をしてると雅紀が「完全に誤解されてるね」って笑う。

「誤解？」
「俺らがデキてると思ってんでしょ」
「...勘弁してよ…」
「俺、翔ちゃんなら良いよ。あ、翔ちゃんどっちが良い？あー、俺でも、やられんのは嫌だなぁ」

マジで勘弁してよ。
節操が無い！
バカか！
貞操観念がバカになってんのか！

「ところで翔ちゃん、まだチェ...」
「んな訳無いだろ。って言うか、お前、知ってるだろ？」
「...あぁ、居たね！最低な女だったから忘れてた！」

俺にはかるーくトラウマがある。

雅紀が言ってた高校の頃の失恋、とはまた別で。
あれはあれで、かなりの痛手だったけど今思えば青春だ。
良い経験になった。
ちゃんと大学入ってからは彼女できたし。

ただ、五年前のあれがきっと。

雅紀が最低な女って言った、あの娘との事がきっと。

俺が恋愛スイッチを切った原因なんだろう。

大したことじゃない。

だけど、恋愛にウンザリしたのは間違いない。