空想カタルシス【ars S.S】 (ページ17)

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17.レモン。ページ17

並んで雅紀と座席に座り、窓を振り向きあのワンピースを見る。

やっぱり、俺にはおとなしそうな物静かな女の子に見える。

「じゃあさ、翔ちゃん。あの娘ってどんな風に暮らしてると思う？」
「はぁ？お前、いつもそんな妄想してんの？」
「妄想、楽しいじゃん。ねえ、どう思う？」
「...えぇー...あ、料理とか好きそう。趣味は読書とか？あぁ、前に音楽聴いてたんだよな…クラッシックとか聴くのかな」

走り出した電車の音と重なって、雅紀がククッと笑う。

「何だよ」
「翔ちゃん、それって翔ちゃんの理想の女の子？」

言われてみれば…そうなのかな？
家庭的で、貞淑で。
女の子らしい、女の子が好きだ。

「そんな娘とどんな出会い方がしたい？」
「出会い...あぁ…自然と出会いたいかな。合コンとかじゃなくて」
「翔ちゃんの会社にそんな娘はいる？」
「居たら俺、今頃恋愛してんだろ」

そう言えば、俺はもう何年も恋愛のスイッチを切ってる気がする。

雅紀みたいに女の子の事ばっか考えたりもしないし。
ニノみたいにオンナノコ虐めたいとかも思わないし。
智くんみたいに可愛い女の子の絵を描くわけでもないし。
潤みたいに黙ってても女の子が寄ってくるって事も無い。

「俺らの歳になるとさ、会社以外で自然と出会うって結構ハードル高いよ？」
「まぁな」
「そもそも自然と出会うってどんな？あれか！曲がり角曲がったらレモンいっぱい入った紙袋抱えてる女の子とぶつかって...！みたいな！」

おいおい、それいつの時代の話だよ...。

「一緒にレモン拾うの手伝ってたら、お互いの手が触れ合ってしまって...キャッ！みたいな？」

古いなー...出てくるシチュエーション、古いなー...。

「翔ちゃん！そんなドラマみたいな出会い、絶対無いからね！」

そんな力説しなくても分かってるわ。

「そもそも、レモンそんなに買わないからね！」

そこかよ。