空想カタルシス【ars S.S】 (ページ16)

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16.例えば。ページ16

今日の雅紀は、真っ黒だ。
黒い服に、黒いニット帽。

「地味だな、今日」
「俺？そう？あ！これ、可愛くない？」
「これ？」

雅紀が視線を下に向けたから、同じように下を向くと雅紀は真っ青のごついスニーカーを履いていた。

「あぁ、足元がそんなに派手だったのか」
「え？見えてなかったの？」
「普通、人の格好そんなに気にしないよ」
「うっそ！俺、全身見るよ！上から下まで」

そう言いながら、俺の全身を上から下までわざとらしく見る。
残念ながらどんだけ見てくれても、普通のスーツだよ。
シャツもネクタイも靴も、無難な普通のデザインだよ。

「雅紀は、それ、職業病なだけだよ」
「あ、そうなのかな」
「服屋だからなぁ」
「女の子だと服だけじゃないけどね、見るの。本当に見たいのは服の無い状態なんだけど」

表情が爽やかだから騙されそうになるけど。
言ってることは、全然爽やかじゃない。

「雅紀って女の事ばっか考えてんの？」
「人を猿みたいに！けど男の事よりは考えてるよ」

いやいや、それで男にも興味持ってたら節操無さすぎる。

「じゃあさ、翔ちゃんは女の子の事考えないの？」
「...別に...」
「例えばさぁ...」

雅紀は周りをキョロキョロと見渡す。
そして、視線が線路の向こう側で止まった。

「あの娘」

雅紀が目で示した先には、あのワンピースの彼女。

「...あの娘が...何だよ」
「翔ちゃんはあの娘、どんな娘だと思う？」
「は？」

何で雅紀がそんな事を聞くのか理解できなかったけど、俺はちょっと想像してみた。

「おとなしいんじゃない？」
「何でそう思う？」
「何でって…ワンピースとか着る子っておとなしそうなイメージ」

色も白だしな。
前に見た時も黒だった。
派手な色を着てるのは、想像できない。

「さすが翔ちゃん」
「だろ？」
「俺があの娘に持ってるイメージと全然違う」
「え？」

あの娘きっとおとなしくなんか無いよ、と雅紀が言ったと同時に電車がホームに入ってきた。