空想カタルシス【ars S.S】 (ページ14)

今日:24 hit、昨日:41 hit、合計:1,268,883 hit

14.つまらない。ページ14

「じゃあな、潤」
「うん、お疲れ様！」

俺は潤より三駅分早く、電車を降りた。

秋に片足突っ込んだ町の風は少し酔ってる頬には気持ち良い。

あの三人は今頃ニノんちで騒いでんだろうな。

想像しただけで、頭ん中がやかましい。

たまに。

アイツらと居ると、自分は何てつまらない人間だろうかと思うことがある。

この歳になって本気でバカになれるのは、本当はバカじゃないから。
芯があるんだ。

そんなアイツらを見るのは好きだ。
潤も言ってたけど、刺激になる。

ただ、俺はアイツらのようにバカになりきれない。
どっかで、自分に自信が無い。

『一流』だと。
『エリート』だと。

言われても大しても嬉しくない事を言われ続けて。
でも、それを「そんな事無いですよ」と否定することが、他人の気をほんの小さくでも苛立たせてしまう事も知っている。

だから、曖昧に笑って流すしかできないんだ。

例えば。
ニノなら。

アイツが卒業したのも、一流大学だ。
何たって、首席だったからな。

そして、一流の出版社に勤めてる。

それを「凄いですね！」と言われたらニヤリと笑って「凄いでしょ、出来ちゃうんですよね、オレ」とか言っちゃうんだろう。

けど、全然嫌味に聞こえないのは高校の頃から『顔は天使なのに』と言われてた、あの愛嬌ある笑顔のせいだろう。

あれも才能だ。
持って生まれた才能だ。

夜道を自転車飛ばして家に帰り、俺はソファに鞄を投げた。

「...あぁっ！！...最悪だ...」

ひっくり返った鞄からコロンと、団地妻が転がり落ちた。

返すの忘れてた...。
明日の朝も自転車通勤確定だ。

DVDを拾って、一瞬「観てやろうか」と思ったけど。
すぐに鞄の中に戻した。

そもそも、俺、団地妻は趣味じゃねぇよ。