11.ドが百個。 ページ11
俺は腕時計をチラッと見た。
そろそろ帰らないと、終電を逃すかもしれない。
「悪い、俺そろそろ帰るわ」
財布を出しながら俺が言うと「じゃあ、俺たちはどうする？」と雅紀が皆の顔を見回す。
「オレんちで飲み直します？」
この近所のマンションに住んでるニノが、残ってる焼酎をクイッと飲み干して言う。
「良いね！」
「おれも息抜きに行くー」
雅紀と智くんが机を挟んで「イエーイ！」とハイタッチ。
「ごめん、俺は明日仕入れあるからさ...翔さんと帰るわ」
「お花屋さんも大変なんだな」
「そうでも無いよ？癒されるもん、花に」
何気ない俺の言葉にそんな風に答える潤は、まるで王子様だ。
メルヘンの国の王子様だ！
プリンスオブメルヘン！
「だから、翔ちゃん。たまに潤くんを見る目がおかしいって」
「ちっ...！潤はプリ...っ...いや、何でもない...」
今回はギリギリで回避できた、と自分では思ったがニノはニヤニヤと楽しそうだ。
ホント、コイツは顔は綺麗なのに性格に癖がありすぎる。
「あ、翔ちゃん、これ」
そう言ってニノは一冊の本を俺に渡す。
「読みたいって言ってたでしょ？俺んとこが出してるやつだったから一冊貰ってきた」
「マジで！ありがと！」
...悪い奴じゃない。
むしろ、友達や彼女にも優しいタイプだ。
ただ、頭に『ド』が百個くらい付くＳなんだ。
「おまけでこれもあげる」
そこには、えらく色っぽい表紙の文庫本。
「カンノーショーセツ」
「...いや、見たら分かるし…」
「翔ちゃんが好きそうなの選んだから！オレのお墨付きだから間違いないよ！」
その文庫本を手に取ろうともしない俺を見てニノは心底楽しそうにクスクス笑う。
「あー！翔ちゃんってホント可愛いわ。おもしろ」
...悪い奴じゃない...。
天使の顔して悪魔の笑顔を浮かべるニノを見て、俺はちょっと自信が無くなった。
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2013年9月5日 19時
