空想カタルシス【ars S.S】 (ページ1)

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1.駅。ページ1

俺が子供の頃から住んでるこの町には、三つの駅がある。

うちから徒歩１０分のＪＲのでっかい駅。

うちから徒歩２５分の私鉄の主要駅。

それと、うちから１５分の私鉄の普通電車しか停まらない小さな駅。

ただし徒歩じゃなくて自転車飛ばして１５分。

どの駅からでも俺の会社には行ける。
しかも通勤にかかる時間も、定期の値段も変わらない。

となると、当然俺が使うのは最寄りのＪＲだ。

けど、今朝俺はうちから一番遠い普通電車しか停まらない小さな駅のホームにいた。

手には焼きたてのパンが入った紙袋。

俺はその紙袋を顔の下まで持ち上げてクンクンと中から香る香ばしい匂いを吸い込んだ。

久々に乗った自転車は油を差し忘れててギーギーいったし、普段使ってない筋肉でも酷使したのか何か脚は怠いし、そもそもスーツで自転車って、しかもロードバイクでも何でもないママチャリって。
全くスタイリッシュさは無いけど、むしろダサいけど、今の俺は満足だ。

いつもよりちょっと早起きして、いつもよりちょっと早く家を出たから眠たいけど、ガラスに映った自分を見たら後頭部の毛が立ってるとこあったけど、満足だ。

気分は最高だ。