楽園クラッシャー【ars M.A】 (ページ10)

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10.安心の男子。ページ10

エイプリルフールちゃんは、口をポカンと開けてしゃがんだまま俺を見上げてる

「...あっ！」

どうやら俺が誰なのか分かったらしく「こんばんは...」と軽く会釈された。

「チャリ、動きにくくなっちゃったの？」

俺は愛車をそこに立てて、エイプリルフールちゃんの隣にしゃがむ。

「チェーン、外れた？」

ペダルの辺りに手を添えて覗き込む。

...違うな、チェーンはちゃんとハマってる。

ちょっと引き目でチャリを全体的に見て、後輪がぺったんこになってる事に気付いた。

「あー...パンクしてるわ」
「パンク...」
「うん、無理して乗るとチャリ傷めちゃうから修理してから乗った方が良いよ？」
「そっか...」

エイプリルフールちゃんは立ち上がる。
俺も、立ち上がる。

彼女は自転車のスタンドをあげて、俺に「あの...ありがとうございます」と頭を下げて歩き出した。

「チャリ、引いて帰るの？」
「まぁ...もう自転車屋さんも開いてないし、それしか帰る方法無いから」
「じゃ、送るよ」
「...は？」

眉間にキュッと皺を寄せて、俺を訝しげに見る。

「この道、めっちゃ暗いし。女の子1人でこんなでっかい荷物引きながら歩いてたら危ないでしょ？」
「いや...良いです、大丈夫です」
「両手塞がってるから、襲われても抵抗出来ないよ？」
「襲われないです、大丈夫です」

まるで『襲われるとしたらお前にだよ』とでも言ってるような視線。

警戒心、丸出し。

おっかしいなぁ...安心の男子と言われた俺が。

なーんて。

「俺と並んで歩くの嫌だ？」
「いや...そーゆー事じゃ無くって...」
「じゃあさ、見守る、ってのはどう？」

警戒心を全く解かない彼女は、眉間の皺を更に深く刻む。

「俺、ちょっと離れて後ろから君が家に帰るまで見守りながら歩くよ」
「本当に大丈夫ですから」
「このまま帰ったら俺が気になんの。あんな暗い道に女の子1人にしちゃったなーって」

ね？って笑うと、彼女は拒否とも受け入れてくれたともどっちにも取れる『愛想笑い』を浮かべて自転車を引いて歩き出した。

俺は約束通りに、適度に距離を取って彼女の後ろをチャリ引いて歩く。

ぜーんぜん、振り返ってくんない。

歩くスピード、落としてくんない。

カラカラカラ、とパンクしたタイヤが回る音。

真っ暗な夜空に、白い息を吐き出す。

少し向こうに、揺れる君の髪の毛。

冷える指先が、ジンジン痛いな。