楽園クラッシャー【ars M.A】 (ページ13)

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13.タイミング。ページ13

駅までの暗い夜道で、ヒトミちゃんは俺を見上げて笑った。

「雅紀くんってもしかして好きな人、出来た？」
「え...？何で？」
「んー、女の勘かなぁ。こないだとちょっと違ったから」
「違ったって...何が？」
「抱き方」

細い指を俺の指に絡める。

「え！？何それ！俺、下手になってた？」
「違うよぉ！それは大丈夫、上手過ぎる位だと思うから」

ヒトミちゃんは俺の顔を覗き込んで「雰囲気がね、ちょっとだけ違ったの」と言う。

「そう？...よく分かんないや」
「自分じゃ分かんないのかな？でも、好きな子が出来たならこんなコトはやめた方が良いよ？」
「こんなコト...」
「うん、好きな子とだけシた方が良いよ？」

何て返せばいいか分からない。

好きな子？...居ないし。

「...寒いね！」

何となく気まずくて、絡めてた指を解いてそのまま肩を抱いて引き寄せればヒトミちゃんは俺にピタっと寄り添う。

ふっくらとグロスで濡れる唇に、軽く口付ける。

...道の真ん中で俺、何してんだろう。

たまに少し、冷静になる自分の頭にちょっと、イラっとする。

その時、後ろから自転車が俺達を追い抜いて行った。

「あ、見られちゃったかな」
「ん？」
「さっきの人に、私たちがチューしてたトコ」
「かもね」

クスっと笑ってもう一度キスしても、触れた唇が

やっぱ、何か、冷たい。

駅でヒトミちゃんと別れて、あったかい飲み物でも買おうと思ってコンビニに入る。

「あ...」

今出勤したのか、髪を一つに纏めながらバックヤードの扉から出て来たエイプリルフールちゃんと鉢合わせした。

「今から？」
「はい、そうです」
「そっかぁ、頑張ってね」
「...」

彼女は怪訝な顔して、俺の顔をじっと見上げてる。

でも目は合わない。
どこ見てんだろう...。

「...ん？何？何か付いてる？」
「付いてる」

そう言って俺の口元を指差す。

「ラメ」

ラメ...？

「唇、ツヤツヤですよ」
「くちび...あっ！」

ヒトミちゃんのグロスか！

「やっぱりさっきのって、お客さんだったんだ」
「さっきの？」
「道の真ん中で...」
「...っ！あのっ...さっきのチャリ...」
「はい、私です」

そして「前にお連れになってた女の子と違いましたねぇ」って、ボソっと呟く。

「えっ！？いや...一緒...じゃないかなぁ...？ほら、後姿しか見てないでしょ？」
「髪の長さ、全然違ったけど」

彼女はフフフッと笑うと「仕事、あるんで」と、俺に頭を下げてレジに向かった。