純情サディスティック【ars K.N】 (ページ10)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:820,059 hit

10.赤ペン。ページ10

「とりあえず...」

また鞄の中から何かを取り出す。

「どっちが良い？」
「え？」

二宮さんの右手には子猫の写真のカレンダー、左手には子犬の写真のカレンダー。

「どっち？」

私は質問の意図が全く分からないまま「ワンコ...」と子犬の方を指差す。

「こっちな、オッケー」

私が選ばなかった子猫の方を鞄にストンと落として、二宮さんは子犬のカレンダーをペラッと捲る。

「進行スケジュールで大事な日、印付けとくから。全部、重要な締切だと思え。最終締切に間に合えばそれで良いなんて甘い事、許さねぇよ？」
「...はい...」

赤ペンを出して、口でキャップを抜いてそのキャップを歯で挟んだままカレンダーにキュッキュと丸を付けて行く。

「...そんなに...」

可愛い柴犬の子犬が写る、今月のページ。

それが赤ペンでどんどん埋められる。

「当然だろ。原稿上げてもオレがチェックして書き直しをさせる事だってあんだから」
「書き直し...」
「中途半端なモン、世の中に出しても良いと思ってんの？」
「いいえ...」

菅原さんって優しかったなぁ...。
二宮さん的に言えば、甘かったんだろうけど...でも、優しかったなぁ...。
どんなに禿げ上がってても、優しかったなぁ...。

「おい、聞いてんのか？」
「あっ！はい...聞いてます」
「じゃ、まず明日な？」
「...えっ！？」

赤ペンで明日の日付をピッと指す。

「明日までに、今書いてる章は仕上げとけ」
「あしっ...明日っ！？」

無理っ！無理っ！！

「でもっ...！」
「まーた『でも』って言う。あんまり良くねぇな、それ」
「でも、明日は学校が...」

学校もあるのに、明日までに書けなんて...高校生にめっちゃ無理させるスケジュールじゃん！！

なーにが『無理はさせたくないの』だっ！！

「必要ならオレ、学校休ませるよ？休む？」
「...休みません...」
「根性あるな！よし、そんなAにはコレをやろう！」

二宮さんが得意気に私の目の前に出したのは、高級洋菓子店として有名なパティスリーラトルメンタの紙袋。

「それ食って、頑張れ。無理はせずに、すっげぇ頑張れよ？」

すっげぇ頑張るのと、無理するの、どんな風に違うのか分かりやすく説明して頂きたい。

でも...

「美味しそうー！」

高校生の私には手が出ない高級ケーキに、私の心は簡単に踊った。

「ありがとうございます、こんな高い物...」
「ん？経費だから気にすんな！」

二宮さんはモンブランを手掴みして、パクリと食べた。