純情サディスティック【ars K.N】 (ページ40)

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40.FERRIS WHEEL。ページ40

「お二人様ですねー！どうぞー！」

観覧車乗り場のお兄さんが、明るく私と二宮さんを案内してくれる。

「ゴンドラ動いてますから、気を付けて乗って下さいね！」

お兄さんの言葉に二宮さんが「はーい」って間伸びした声で応えてクルッと私を振り返って

「A、気を付けろってさ」って笑う。

お兄さんが扉を押さえてくれてるゴンドラに、二宮さんが先に乗り込んだ。

それに続いて乗り込もうとしたら、二宮さんはまだ座ってなくて。

「ほら」って、私に左手を差し出す。

「えっ！？」
「気を付けろって言われただろ？A、躓きそうだし」
「躓かないですっ！」
「良いから早く手、掴めや！動いてるっつってんだろ！」

ほらまた...

言葉は最強に悪いのに、その顔は楽しそうに笑ってるんだ。

「乗らねぇの？」
「...乗りますっ！」

差し出された左手を掴むと、ギュッと握られてグイッとゴンドラの中に引っ張り込まれた。

その瞬間、背後で「いってらっしゃーい！」ってお兄さんに扉をカタンと閉められる。

「座んないと危ねぇぞ」
「わ...分かってます！」

いつの間にか座ってる二宮さんの向かい側に腰を下ろして、傍らにワンコをそっと置いた。

さっき握られた左手を右手で包む。

トクントクン、って手に心臓が移動しちゃったのかなって思う位。

「Aは高いトコ、好き？」
「え...あ、はい」
「オレの友達にさ、高所恐怖症がいて。おもしれぇの」
「へぇ、どんな人なんですか？」

何でも無い世間話も

憧れてた観覧車での二人きりの空間なんだと思うだけでトクベツに感じる。

「あ、すげぇ景色綺麗」

外を眺める二宮さんの横顔は、夕陽に照らされて少しオレンジ色に染まって...

「本当だ...綺麗...」

私には景色を見る余裕なんて、全然無い。

「観覧車かぁ...これもデートの定番だな」
「...二宮さん、デートで乗ったんですか...？」
「そりゃあ、もう30年も生きてるかんね。ベタな経験は済ませてるよ」
「初めての...彼女とも...？」

ずっと景色を眺めてる二宮さんの目が、少しだけ、揺れた気がした。

「どうだったかな」

でももうその目は、いつものように涼しく微笑んで

「忘れたわ」

私と視線を合わせた時には、少し意地悪に口元を綻ばせた。