純情サディスティック【ars K.N】 (ページ4)

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4.DEVIL。ページ4

目の前の、ふんわりと黒髪に包まれた後頭部をジッと見てると「ねぇ...」と二宮さんが呟いた。

「えっ！？あ、はい」

マウスを動かしてPCの画面を見たまま、二宮さんは続ける。

「これさぁ...もしかして全然進んでないの？原稿」
「あ...はい...」

マジか...と、低い声の後にハァ...と大きな溜息。

が、聞こえたような気がしたんだけど...

...え？聞き間違い？
天使のような二宮さんが、そんなあからさまに感じ悪い態度取らないよね？

「あの...二宮さん...？」
「甘やかされてたんだなぁ...」
「え？え？」

二宮さんの言葉に困惑してると、彼の頭がゆっくり振り返った。

物凄い至近距離で、彼の茶色い目がジッと私を見てる。

...肌、スベスベだ。

毛穴は？この人の毛穴はどこにあるの？

私なんて、まだ十代のピッチピチ女子のはずなのにほっぺの真ん中にニキビ出来ちゃってるのに...って、そうだ！

私、今、ほっぺの真ん中にニキビがっ！！

慌てて自分の右頬をパチンと掌で隠す。

「何してんの？」
「いえ、何でも...無いです...」
「あー、もしかしてニキビ？」

でっかいの出来てたなぁ、なんてククッと笑う。

一気に顔が熱くなった。

女子高生にとって『でっかいニキビ』がどれだけショックなものか、絶対この人分かってない！

「なぁ、締切守る気はあんの？」
「それはっ...！もちろん...守りたいですけど...」
「けど？」
「......」

二宮さんは私の前から離れ、またギッと音を鳴らしてふんぞり返るように椅子に深く座ると「甘いんだよ」と冷ややかに吐き出した。

ちょっと綺麗な顔してるからって、騙されるトコだった。
すっごい感じ悪い...。

なんて思ったら、さっきまでのワクワクなんてスーッと萎んじゃって。

逆に不安ばっかりが膨らんで来る。

こんな人が担当で、私、やる気なんて出るとは思えなくなって来た。

「覚悟しとけよ？」
「え...？」
「俺は菅原のオッサンみてぇに甘くねぇかんな？」
「は...？」

二宮さんは、口の端をキュッと上げて目を細めた。

「オレが、一人前の小説家にしてやるよ」

天使、みたいな微笑み。

「甘えんなよ？甘やかさねぇけど」

だけどきっと、この人は悪魔だ。