純情サディスティック【ars K.N】 (ページ30)

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30.サディスト。ページ30

相葉さんがニコニコしながら私が着てた服を綺麗に畳んで紙袋に入れてくれてる。

手早く、丁寧な仕事にボーッと見惚れてたら二宮さんがカウンターに凭れながら「Aさぁ...」って呟く。

「オレ、こんな端金くらい、すぐに取り戻せる程に利益が出る小説を書かせますからっつって経費の交渉したから」
「...はい？」
「売れに売れるモン書けよ？バカ売れするようなモン書けよ？」
「......」

いやいや、努力はしますけどね？

売れるかどうかは分かりませんよ？

「じゃなきゃさぁ、オレ、嘘つきになっちゃうだろ？儲けさせてやるから金出せっつったのに」

知らないし！
二宮さんがそんな輩まがいな事言ったの、私、関係無いし！

「そんでさぁ、オレの『敏腕編集者』ってゆー肩書きを不動のモンにしてくれよ」
「敏腕...」

それ、肩書きじゃないですよね。
勝手に己が言ってるだけですよね。

「ニノ、仕事でもこんなに理不尽なサディストなんだ」

相葉さんが面白そうにクスクス笑う。

「理不尽じゃねぇだろ。Aを頑張らせるのがオレの仕事。オレの名声の為に頑張るのがAの仕事」
「いや、ニノ。それは違うよ。Aちゃんが頑張るのはAちゃんの話を待ってる人の為でしょ？ね？」

そう言って私に小首を傾げて、ニッコリ笑う。

キャーッ！相葉さーん！
素敵！

...私、何で二宮さんが好きなんだろう。

「ばぁか、冗談に決まってんだろ」

クククッと二宮さんがおかしそうに笑う。

「オレの為なんかで書かれてもイイモン書ける訳ねぇよ。それから、待ってる人なんかの為にも書かせねぇよ、まだ」
「二宮さん...？」

相葉さんに向けてた視線を、ゆっくりと私に向けて「今は、お前の為だ」って、口角を上げる。

「Aが、小説家としてやってく自信と覚悟が出来るモンを書かせるよ。待ってる人に...なんて10年はえぇわ」

相葉さんから私の服が入ってる紙袋を受け取った二宮さんは、それを自分の肩に掛けた。

「そんなプレッシャー、まだAには感じさせたくねぇし。まだ自由に楽しく書かせてやるよ、オレが」

...こんな人だからだ。

私が二宮さんを好きな理由。

何度も何度もキュゥンって、胸を締め付ける。

言葉はキツイのに

言ってる事、いつだって優しくって

...格好良くて...

ホント、ズルい。

二宮さんは、ズルすぎる。