純情サディスティック【ars K.N】 (ページ25)

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25.口パク。ページ25

家を出た所には、大きな黒い車が停まっていた。

パパの車も大きくて黒いけど、そんな、ファミリータイプのワンボックスじゃなくて...

何と言うか...乗ってるのが似合う人が限られるだろうなと思うような、そんな車。

そして、そんな車に凭れて二宮さんがスマホで誰かと電話してる。

いつもの二宮さんはスーツって事は無かったけど、ビジネスカジュアルって言われてるらしい綺麗な格好をしていて。

なのに

今日の二宮さんは、黒いショートダッフルに細身のライトグレーのパンツで黒いハイカットのスニーカー。

眼鏡は、今日は掛けてなくて髪が少しふわっとしてる。

普段よりも、ずっと若く見えるのに

普段よりも、大人にも見えてしまう。

私が家から出て来た事に気付いた二宮さんは、スマホを耳に当てたまま軽く手を挙げた。

そしてそのまま

「おはよ」

って、口パクした。

ドッキン、って心臓が口から出てきそう。

家の前から動けない私を手招きしながら、また口パクで「おいで」って微笑む。

慌てて駆け足で二宮さんの前まで行く。

「んー、分かった。じゃ、そゆ事でー。よろしくー。じゃねー」

ゆるーく電話を切った二宮さんが「早いじゃん」って笑ってくれる。

「遅刻したら、二宮さん帰っちゃうと思って...」
「フハハッ！帰んねぇよ。大事な作家先生の取材なのに」
「え...でも、5分でも待たすなって...」
「そう言っとけば、遅刻しねぇように頑張るだろ？」

助手席のドアを開きながら、二宮さんはククッて笑う。

「はい、乗って」
「え？」
「乗ーれ！」
「はいっ！」

こんな事、初めてされたんだもん！

ドアを私の為に開けてて貰うなんて...
しかも、私が乗り込んだら二宮さんがドアを閉めてくれて。

何か、それだけの事なのに大人の女になった気がしてしまう。

ドキドキしてると、運転席に二宮さんが乗り込んで来た。

「さてと...」

二宮さんがスマホをポケットに入れてから、車にエンジンをかける。

そう言えば...

さっき電話してた二宮さんの声や喋り方、私の知らない雰囲気だった。

電話の相手、誰だったのかな。

誰とだったら、あんな緩く話すんだろう。

モヤモヤ、気になるけど

それより今は、陽に照らされて輪郭が柔らかく浮かぶ二宮さんの横顔にドキドキする事で

私の胸は忙しい。