純情サディスティック【ars K.N】 (ページ23)

今日:11 hit、昨日:0 hit、合計:820,058 hit

23.煙草。ページ23

二宮さんが空っぽになったティーカップを、ソーサーの上にカチャと小さな音を立てて置いた。

「んー...」

眼鏡を外してコシコシと眠そうに目をこする姿は、私と同級生だって言われてもそんな不思議じゃないのに

「ベランダ、借りるなぁ」

そう言った二宮さんの手には、大人にしか許されていない、煙草。

ベランダへの掃き出し窓を開けて、外へ出た二宮さんは携帯灰皿を片手に夜空に向かって

フゥ...と、煙を吐き出した。

私は、その姿を部屋の中から眺める。

二宮さんは煙草を一本吸うのに、五分はかける。
って事は、後五分はここに居てくれる。

それが嬉しいから、煙草を吸う二宮さんが好き。

パパが吸う煙草は煙たいだけで嫌いなのに。

二宮さんが吸うと、何であんなに格好イイんだろう。

ふわふわと紫煙が空へ昇る。

ベランダの手すりに凭れるアナタの隣に、並んでみたい...って思うけど

私はきっと、煙草を吸うアナタの隣には釣り合わないんだろうな...って思って近付けない。

少し残ってた紅茶を飲んでると、二宮さんが部屋に戻って来た。

「さてとー、帰るかな」
「...はい」

二宮さんから、微かに香る煙草の匂い。

「土曜、11時に迎えに来るわ」
「分かりました」
「寝坊すんなよ？オレを5分以上待たせんなよ？」
「たった5分...」
「むしろ、社会人の基本は5分前行動だろ」

私まだ高校生だもん。

...なんて言ったら『労働して稼いでるなら社会人だ』なんて言われそうだから、やめとこ...。

「あ！A、間違っても制服で来んなよ？」
「土曜なのに着ませんよ！」
「さすがに三十路オトコが女子高生丸出しのオンナノコ連れて歩いてたら捕まっちゃうわ！」

フハハッて楽しそうに笑うけど、私は上手く笑えないよ...。

「...大丈夫ですよ。二宮さん、30歳になんて見えないから」
「マジか？まだイケっかな、オレ」

ジャケットを羽織って、鞄を手にした二宮さんと部屋を出て玄関まで一緒に下りる。

「じゃ、また土曜な」
「はい。絶対に寝坊しません！」

寝れないかもしんないけど。

金曜の夜、楽しみ過ぎて
緊張し過ぎて

寝れないかもしんないけど

でも寝坊だけは絶対しない！
二宮さんを5分だって待たせたりしない！
その5分だって、一緒に居たいもん。

「てるてる坊主作っとけよ？」

ポン、と二宮さんの手が頭に乗る

胸がギュウって、握り締められてるみたい。

二宮さんに頭を撫でられる度に

私の胸、潰れそうになるよ。