純情サディスティック【ars K.N】 (ページ22)

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22.苛立ち。ページ22

コンコン、と部屋のドアがノックされてママが顔を出した。

「紅茶、淹れましたよー」
「あ、すいません。有難うございます」

ママの方に顔を向け、ニッコリ、やっぱり天使のように微笑む二宮さん。

その膝の上にさっき何かを書き込んでた手帳が広げられたまま置いてある。

二宮さんがママを見てるのを確認して、「ごめんなさい！」って思いながらその手帳をそっと覗いてみた。

今週の土曜日『Aとデート』なんて書いてないかな？って

二宮さんのスケジュールに、そんな予定が書き込まれてないかな？って

でも、そこにはアッサリバッサリ『取材』って書いてあった。

他の日にビッチリ書き込まれてる仕事の予定と同じように、事務的な文字。

当然なんだけど...
だって仕事だもん。
取材だもん。

なのに卓上カレンダーに目を移すと、そこには二宮さんの字で『カズくんとデート』って書いてある。

それが二宮さんの仕事に対する心遣いだと分かってても、ちょっと、ズキンズキンと心が痛いよ...。

「A、ちゃんと仕事してますか？マイペースな子だから二宮さんに迷惑掛けてないか心配で」
「もうママ、うるさいよ...」

ママがいらない事を言ったからなのか

せっかく二宮さんと二人っきりなのに邪魔されたからなのか

それとも、それとも...

とにかく私はイライラしてしまって、でもそんな態度を二宮さんの前で出したくなくって

ただ俯いた。

「大丈夫ですよ、お母さん。Aさんは才能のある子です」

二宮さんの声が、俯いた私の耳にふわりと届いた。

「締切も守ってくれるし、その辺の大物作家よりずっと立派です。な？A」

ンフフって、いつものように笑って俯く私の顔を覗き込む。

そして、卓上カレンダーを何気無くパタンと倒した。

「あ、お母さん。今週の土曜にAさんと取材に出掛けたいんですが、大丈夫でしょうか？」
「あら、そうなんですか？二宮さんが一緒なら安心です。お願いしますね」
「はい、お任せ下さい」

ママが部屋を出て行って、二宮さんは美味しそうに紅茶を飲む。

「何でコレ、隠したんですか？」

倒されたカレンダーを元に戻しながら訊いてみた。

「デートなんて心配させちゃうだろ？仕事の為とは言え」
「あ...」

そんな所まで気を使うんだ。
絶対にママ、こんなの見ないのに...。

そんな小さな事だって

二宮さんは大人なんだって、苦しくもなるし

やっぱり、格好良くてドキドキもするんだ。