純情サディスティック【ars K.N】 (ページ12)

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12.間に合わす。ページ12

夕飯の後に食べた二宮さんが持って来てくれたラトルメンタのチョコレートケーキは
今まで食べたどんな洋菓子よりも美味しかった。

ママが淹れてくれた紅茶も美味しくて、私はそのままシャワーを浴びてポカポカの毛布に包まって眠りたかったのに...

「...仕事して来ます...」

リビングで寛ぐパパとママに今生の別れかのように頭を下げて、私は部屋に戻った。

机の前に座って、さっきまで二宮さんが座ってた折り畳み椅子をじっと見る。

『旨いケーキ食ったんだろ？じゃあ、さっさと仕事しろや』

なんて、空耳が聞こえてきそうでブンブン頭を振ってPCを開く。

私はきっと、今までで一番集中して画面と睨めっこした。

二宮さんに言われた通り『すっげぇ頑張って』書いた。

あの人の言う『容赦しねぇ』だとか『許さねぇ』とかの正体が分からないだけに、何されるか分からなくて恐ろしい。

...なのに...。

「うそっ！？」

気が付いた時は、私、ベッドに居た。

しかも、窓の外はスッカリ日が昇ってる。

慌ててPCを見ると...当然だけど書き上がってない。
そりゃそうだよ！
書き上げた記憶が無いもん！

「あ、A起きたの？おはよう」

背後から声を掛けられて振り返ると、ママがにこやかに立ってる。

「私...寝...寝て...寝てたっ...！」
「寝てたわねぇ。机に突っ伏して寝てたからベッドに行きなさいって言ったのよ」

そしたらフラフラベッドに倒れ込んですぐに寝たわよー、なんてママは面白そうに笑う。

「早く学校行きなさいよー？」

学校...そうだ...休まないって言ってしまった。
休まないって言ったから、根性あるな！ってラトルメンタくれた。

もしこれで学校休んだなんてバレたら...

ヤバイッ！

私は急いで制服に着替えて、学校に向かう。

学校にPC持ってく訳にはいかないから、授業中も休憩時間もお弁当だって食べずにひたらすらルーズリーフに下書きして

何とか帰ってPCに打ち込めば良いだけの状態にして『間に合った！』とほくそ笑みながら家に帰った。

どうだ、私だってやる気になれば出来るんだ。

まだ二宮さんとの約束の時間じゃない。
急げば涼しい顔して原稿書き上げて提出できる。

良かった。

今日はゆっくり寝よう。

「ただい...えっ！？」

玄関を開けた私に突き付けられた現実は、厳しかった。

綺麗に揃えられた昨日とは違う男物の靴。
でも絶対、あの人の物だ。

二宮さんはやっぱり、ちっとも、甘くない。