極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ6)

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216.狸寝入り。ページ6

ニノミヤが、私の頭を撫でながら隣の席に腰掛けた。

「...疲れてんのかな？お疲れさん」

本当に私が寝てると思ってるらしく、小さな声で呟いて

ふわりふわり、頭を撫で続ける。

顔を伏せたままちょっとだけ角度を変えて目を開くと、机に片手で頬杖をついて微笑むニノミヤが目の前に居た。

「ん？起きた？」
「...うん」

そもそも寝てないんだけど...

「おはよ」
「...ん」

軽くコメカミに落とされるキスに、ドキドキよりも安心した。

「帰ろっかー...って、どこまで送ったら良い？」
「え...？」
「センパイ、一緒に帰ろうって言ってたけど、どこまで一緒に帰んの？」
「あ...そっか...」

今日は平日だ。

一緒に帰るって言うのはおかしかったかもしれない。

「オレ的には『カズ君んちに一緒に帰りたいー』って聴こえてたんだけど」

机に乗せた腕の上に頬を引っ付けてる私と視線の高さが合うように、コテンと上体を倒しこっちに顔を向けて私と同じポーズになったニノミヤがキュっと口角を上げる。

「違った？」

また、その手が伸びて来て

私の顔に掛かった髪を優しく払ってくれる。

「...ちが...」
「ちが？」
「...わない...」
「素直でよろしいなぁ」

クフフ、って笑うと「じゃ、一緒にオレんちに帰りましょうか」って立ち上がる。

「早いトコここ出なきゃねー、諸々ヤバイ」
「え？」
「オトコに暗い部屋を与えちゃ駄目って分かってんのかなぁ、このお嬢さんは」

さっきの可愛いクフフ、とは全然違う笑顔を見せたニノミヤにグイっと手を引っ張られ

私の身体は彼の胸にスッポリ包まれてた。

「ったくさぁ、オレ会社ではもうヨクジョーしないって決めたのにさぁ」
「...よく言うよ」
「すっげぇ誘惑して来るからさぁ、オレのハニーってば」
「...ニノミヤは幸せな勘違いをよくするよね」
「うっわ、辛辣！」

ニノミヤがケラケラ笑うとその振動が身体全体に伝わって来て、何だかあったかい。

「腹減ったなぁ...。センパイ、帰ったら何かメシ作ってよ」
「んー、良いけど。何食べたい？」
「あ！豚汁！前にリクエストしたでしょ？」
「うん、良いよ。材料あるの？」

ん？って私の顔を覗き込んだ彼が「あると思うの？」って首を傾げた。

「フフッ。じゃあ、材料の買い出しからだね」
「いやん！夫婦みたい！」
「はいはい、そうだねー」
「フハハッ！何だよ、冷たいなぁ！」

楽しそうなニノミヤを見てたら、胸の中に広がってた黒い靄は

知らない間に、消えてたんだ。