極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ5)

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215.写真集。ページ5

ニノミヤが特に変な顔をしない所を見ると、私はきっと平静を装えてるんだ。と思う。思いたい。

「長瀬さんって何年か前に海外に行ったって聞いてたけど、戻って来たのかな」
「さぁ...どうなんだろうね」

私はどうして良いか分からなくなってウウン、と咳払いをする。

「あ、センパイ帰るんだったね」
「うん...あ、ねぇニノミヤ。今日は何時まで...かかりそう？」
「え？あと１時間くらいかな...どした？」
「待ってるから一緒に帰っても良い？」

ニノミヤと離れたくなくなったのは

思いがけない人の名前を、今の顔を、撮ってる写真を...見てしまったからなのかな...。

「ンフフ、良いよ。じゃあ急いで仕事片付けるから」
「ん、分かった」
「イイコで待っててね」

甘い声で小さく囁くと、唇を尖らせて「チュッ」って可愛い音まで出す。

「エアキス」
「もう...会社ですよ」
「ンフフ、ちょっとはしゃいじゃったわ。じゃ、また後でね」

クシャっと私の頭を撫でて、ニノミヤはオフィスに戻る。

そのまま私は図書室に向かう。

電気も付けず薄暗い部屋に入ると相変わらず誰も居なくて、落ち着いた。

「...な...な...長瀬...あ、あった...」

一冊の写真集を本棚から引き抜いて、パラパラと捲る。

もう何度も見た事のある写真集。

好きで好きで、家でも何度も見て破れてもテープで補正してまで見て

...だけど、最終的には捨てた写真集。

久し振りに見たその写真達に胸がギュウっと縮む。

ほとんど忘れてた名前だった。

写真集の最後のページ、何度も見た写真集の中で一番見てたのはその写真だったかもしれない。

カメラマン本人が、お遊びでセルフタイマー撮影した自分の写真。

無精髭は無いし、少し茶色い髪をふわりと無造作に流してるだけで飾りっ気も無くて、まだ幼くて

だけど、その少年のような笑顔は今日見た写真と同じだった。

パタン、と写真集を閉じて本棚に戻す。

ゆっくり本棚に並ぶ本の背表紙を指でなぞりながら机まで辿りついて、力が抜けたように椅子に腰を下ろす。

そのまま両腕に顔を隠すようにして、机に顔を伏せた。

・

「お待たせー」

暫くして開かれる図書室の扉。

「...って、暗っ。ンフフ、何で電気点けてないのよ」

部屋に入って来たニノミヤは、机に俯せてる私の頭を優しく撫でて

「こんなトコで寝てたらオオカミに食べられちゃうよ？赤ずきんさん」

なんて、赤い服着てる訳でも無い私にクフフと可愛く笑いながら囁いた。