極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ32)

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242.声。ページ32

「Aの彼氏は、二宮くんなんだってね」
「はい。聞きましたか？センパイから」
「うん。Aの家の前で会ったあの時にね」
「そうですか...」

ニノミヤの声が、小さくなった。

「俺を止めに来た？Aを連れて行くな、って直談判しに来た？」

智也の低い声が、ゆっくりと訊く。

「いえ...止めようとは思ってません」

その答えに、心臓が痛くなった。

頭が真っ白と言うよりは、真っ暗になったと言った方が良くて

ストンと、地面にお尻を落としてしまった。

白いスカートだったけど

そんなの、気にもならなかった。

「二宮くんは、俺がAを連れて行っても良いって思ったの？」
「嫌ですよ？そりゃ。でも、それを決めるのは...ボクじゃないです」

零れそうになる涙を必死で堪えてるせいで、喉の奥が熱い。

もしかしたら、もっと辛い言葉が続くかもしれない。

それでも、彼の声から耳を離したくない。

「だけど、長瀬さんでも無いです」
「え？」
「決めるのは、センパイです」

小さかったニノミヤの声が、ピンと張った。

「センパイが一番幸せになれる道を、自分で決めて欲しいと思ったんです」

気の強そうな、意思のある声を

ニノミヤは時々、出す。

絶対に曲げない、真っ直ぐな意思のある声。

その言葉を発した声は、まさにそれで

私の胸はギュウっと縮んだ。

「本音は、絶対にセンパイを離したくありません。でもそれは長瀬さんも一緒ですよね」
「うん、そうだね。君から奪うつもりでいる」
「奪わせませんけどね」
「ハハッ。相当自信があるんだなぁ」

朗らかな智也の笑い声。

「自信なんてありませんよ」

あれだけいつも自信満々な彼から出た言葉。

私はずっと地面を見詰めてた視線を、二人に戻した。

「正直怖いです。ンフフ、オレ捨てられっかもなー...って」

小さく笑ったニノミヤが、眼鏡を外した。

「Aに捨てられたらオレ、きっと飯も食わねぇし、外に出るのもやんなるだろうから仕事も辞めんのかな...」
「ハハハッ！二宮くん、それはオーバーでしょ」

眼鏡を外したニノミヤの顔は、幼い。

幼い目が、憂う。

「全然オーバーじゃないですよ。オレ、A失ったら死んじゃうかもしんない」

怖くなる程の台詞をポツリと零し

「ンフフ、マジで死んじゃう」彼は微笑んだ。

そんなニノミヤを見て、智也も微笑んだ。