極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ31)

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241.屋上会談。ページ31

自分の心臓の音が、あの二人に聴こえてしまうんじゃないかって本気で心配になる程。

息遣いすら必要以上に大きく響いてる気がして来て、意識し過ぎて上手く呼吸も出来やしない。

私はその場にしゃがみ、そっと壁から顔を少しだけ出して二人の様子を窺った。

別にニノミヤが殴りかかりそうな様子も無ければ

智也が睨みをきかせてる、とかでも無い。

でも休憩中の二人が煙草を吸い終えて、雑談でもしてるのか...って雰囲気では決して無い。

そんな穏やかな空気なんか...全然そこには流れてない。

「...長瀬さん」

ニノミヤの声に身体がビクンと反応した。

「言いたい事は色々あるんですが。とりあえず一つ、お伺いしたい事があります」
「うん、何？」
「長瀬さんとセンパイの関係を、教えて頂けますか？」
「俺と...センパイってのはAの事で良い？」
「はい。Aのコトです」

『A』なんて、ニノミヤからもう何度呼ばれたのか分からないのに

どうしてこんなに胸が詰まるんだろう。

「Aからは何も聞かなかった？」
「聞いてないから、訊いてるんです」
「まぁ...そうだよね。ごめん」
「いえ」

ニノミヤは別に喧嘩口調でも無いし、威圧的でも無い。

いつもの、少し舌足らずな感じの、でも頼りなくは聞こえない不思議な喋り方で

智也へ、静かに質問した。

「ボクが見た感じでは、最近親しくなったばっかりの関係では無いなと思ったんですけど」
「うん。そうだね、...元カノ...って存在になるのかな。Aは」
「単なる仕事仲間だった、では無いんですね」
「正確に言うと仕事仲間がそうじゃ無くなって、今は元カノ...かな」

自分の動悸で、頭痛が酷くなって来る。

この状況は、私がニノミヤに智也のコトを話さなかったから

智也にハッキリ何も言えなかったから

私がもっとシッカリしてれば、起こらなかったコトなんだ。

そう思ったら情けなくて、あーしてれば良かったこーしてれば良かったって後悔で潰れそうで泣きそうになるけど

私が泣くのはお門違いだ。

「じゃあ、もう一つ教えて下さい」
「うん」
「長瀬さんはセンパイを、連れてっちゃうんですか？」
「...連れて...そうだね、ロンドンに連れて行きたいって思ってる」

屋上は風が吹き抜ける。

しゃがんだ私の髪の毛が風に舞って、グロスを塗った唇にペタリと付く。

「昔はどうだったか知りませんが、今のセンパイはボクの大切な人なんです」

唇の髪を避けてた指が、止まった。