極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ4)

今日:19 hit、昨日:0 hit、合計:1,521,953 hit

214.腰が抜ける。ページ4

「だってニノにフラれたんだもん！彼女借りる位良いでしょ！」

おぉ...大野さん、なかなかなお返事。

「はぁ？フザけんな、先に一言オレに言えや」
「彼女、お借りしました」
「それ、事後報告だろうが」
「もー！こんな面倒な男の彼女にわざわざ手ぇ出す訳無いだろー！コイツうっさい！」

ついに爆発した大野さんが、ムゥっとニノミヤを睨むと

ニノミヤは偉そうに組んでた腕を下ろし、眉間の皺もユルっと消える。

「ま、大野さんがセンパイに何もしないコト位分かってるけど」
「じゃあ何でチクチク攻めるワケ？」
「何だろ、余興？」
「何だそりゃ」

ブハッて噴き出して笑い合ってる。

...何かよく分からないけど、二人が仲良しな事だけは分かった気がする。

「はい、これ。頼まれてたやつ」
「あ！ありがとー」

『有明書房』と社名の入った厚みのある封筒を大野さんに手渡して、ニノミヤはチラリと私に視線をよこす。

「センパイ、もう帰んの？」
「あー...うん、そのつもりだけど」
「そっか。気を付けてね。外にはほら、泥棒猫だの送り狼だの危険なオトコがいっぱい居るから」

こっちなんて全く見ず嬉しそうに封筒から洋書を出してた大野さんが、視線を感じたのか「ん？何？」って不思議そうな顔で振り返った。

「何でも無いわ」
「あ、そ？何か悪口言われてるのかと思った。フフフッ」

洋書をまた封筒に大事そうに入れて小脇に抱える。

「じゃあおれ、帰るねぇ。センパイさん、案内してくれてありがとね」
「いえ、お役に立てて良かったです」
「ニノもありがと、助かったよぉ」

はいはい、って雰囲気で掌をヒラヒラと振るニノミヤ。

小柄だけどバランスの良いその後ろ姿を見送って、私も帰ろうかと首に巻いてたストールをキュっと口元まで上げる。

「ねぇ、センパイ」
「んー？」
「今さぁ、あのギャラリーって写真展やってなかった？」
「えっ...」

思わぬ一言に腰が抜けそうになった。耐えた。

「やってたけど...何で？」
「いや、オレあの写真展やってるカメラマンさんに装丁の写真頼んだ事あったのよ」
「へぇ...」
「前にうちが出してる雑誌でカメラマンしてたんだけど...って...あれ、そう言えば...」

何も顔に出さないように、必死に平静を装う。

「前にセンパイが創ってた女性誌のカメラマンじゃなかった？長瀬さん」

耐えた腰が、また抜けそうになる。

「うん、そうだよ」

自分の声がいつもとちゃんと一緒かどうか

自分ではちょっと分からない。