極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ25)

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235.階段の果て。ページ25

心配性だねー、ってそんなニノミヤに笑って返すと

チョイチョイと手招きされて、その手招きに誘われて「ん？」と、身体を屈める。

すると助手席の方に身を乗り出したニノミヤが、私の首を引き寄せて

キスをした。

外から半分車内に身体を突っ込んでる私はかなり無理のある体勢なのに、彼は意地悪をするように舌を甘く絡めて来る。

力が抜けてしまいそうなのを必死で堪えて、両腕をシートについて

ニノミヤのキスに応えると、彼は満足そうに笑った。

「ンフフ、Aはキスが好きだなぁ」
「...カズの方が...ってゆーか、自分がして来たんでしょ！」
「え？そうだっけ？」

もう一度唇を小鳥のように触れさせて、ニノミヤは運転席に身体を戻した。

「おやすみ、A」
「...うん、おやすみ」

私も中途半端に突っ込んでた身体をまた外に出して、扉を閉めて一歩下がる。

彼はヒラヒラと手を振るとプッと軽いクラクションを響かせ、車を走らせた。

毎回、車が見えなくなるまで見送ってしまう自分を意外と乙女だよなぁ...なんて思ってしまう。

そしていつもと同じように「気を付けて」って言われた階段を、自分の部屋があるフロアまで昇り

いつもと同じように、鞄の中から鍵を出しながら廊下を歩く。

だけど、今日は鍵を出して顔を上げた瞬間

いつもと全然違う光景が目に入って来た。

「...え...？」

私の部屋のドアの前に、その人は立ってて

驚いたように、私を見た。

「え...何で...？」
「まだここに住んでるのかな...って思って...」

少し気まずそうに、智也は後頭部に手をやった。

「この近くでさっきまで撮影してて、そう言えば...って来てみたんだけど」
「......」
「でも来たら来たで、何かストーカーみたいでヤバイって思ってさ...帰ろうと思ったら、Aが帰って来ちゃって」

で、この状況です。

と、智也は眉を下げて笑う。

「...まだここ、住んでたんだな」
「うん...」
「A、ちょっとだけ時間ある？」
「え...えっと...」
「立ち話で良いよ。部屋に入れろなんて言わないから」

「困るから帰って」と、言えない自分が居た。

何も言わないのは、受け入れてるのと同じだ。

「俺さ、来週の土曜にロンドン帰るんだ」
「そう...なんだ」

俯いて、智也の顔を見ないようにする。

「もう俺、あの時と同じ後悔はしたくないなって...思ったんだ」

その言葉の意味を

必死で考えないようにして

私は俯いたまま、ギュっと目を閉じた。