極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ21)

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231.昔と今と。ページ21

「...休憩？」

智也が、変な間を開けたくなかったのか当たり障りの無い事を私に問い掛けた。

「休憩...と言うか...」
「気分転換、とか？」
「うん、そうかな。そうだね」

頷いて、「仕事、疲れたから気分転換」と応える。

「なぁ、飲み物」
「え？」
「買わないの？ボタン、すげぇ全部光ってるよ」
「...あ！」

智也に笑われ、自販機にお金を入れたまんまだったコトを思い出した私は、自販機に向かい合ってカフェオレのボタンを押したつもりだったんだけど
焦ってたのか横のブラックを押してしまった。

「俺も飲も」

私が屈んで取り出し口からブラックコーヒーの缶を取ってると、智也は隣の自販機にお金を入れて小さなペットボトルのレモンティーを買う。

「煙草の後はこれだよな」

大きな手で煙草とペットボトルを一緒に持って、私に見せた。

変わってないな...と、思った。

智也は私と付き合ってた頃から、煙草を吸った後にはレモンティーが飲みたくなるんだって言ってた。

「うっそー」って笑った私に「口の中をサッパリさせくならない？」って言った智也を、こんなにハッキリ思い出せるもんなんだなって...妙に冷静に思う。
8年以上も前のコトなのに。

「あれ...？Aさぁ」
「え？何...？」
「ブラック飲めるようになったの？」
「...あ...」

私の手の中のブラックコーヒを見た智也が不思議そうに言った。

あの頃の私は、智也の言う通りブラックなんて苦くて飲めなかった。

「...間違っちゃって...ホントはカフェオレを買おうと思ったんだけどね」
「あ、ボタン隣り合わせだから？アハハ！うっそ、間違える？それ！アハハ！」
「ちょっと！笑い過ぎ！」

大笑いしてる智也にムっとした顔を見せると

「変わってないね、A」

彼は、優しい声で小さく呟いた。

「で？その間違ったブラックは飲めるの？」
「...飲めるよ。もう私、大人になったからね」

さっき言われた言葉を否定するように、私は言い返す。

本当は今でもブラックは苦手。
カフェオレの方が好き。

だけど、それは言ったらいけないような気がした。

「...そうだな。お互いもう30代だもんな」
「そうだよ。...うん」
「若かったよなぁ...」

智也のその言葉に主語は無かったけど『あの頃は二人とも』ってゆー主語がつくんだろうな...ってのは、簡単に分かる。

「座らない？」
「え...？」
「休憩でしょ？」

そこにあるソファに腰掛けた智也が「どうぞ」って自分の隣をポンポンと叩いた。