極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ3)

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213.SLINKING CAT。ページ3

「センパイさん？」

立ち止まりギャラリーの出入り口を見てた私に、大野さんが首を傾げながら声を掛けて来た。

「どうしたの？」
「...あ、いえ」
「もしかして、この写真家さん知り合いだった？」

ホワッとして見えるけど、彼は意外と鋭いのかもしれない。

きっと変に嘘をついたら見破れるかもしれない、そう思った私は出来るだけ笑顔を作って頷いた。

「はい。昔、仕事でお世話になった方なんですよ」
「へぇ！そうなんだぁ」
「そうなんです」

嘘じゃない。

仕事でお世話にはなった。

大野さんは別にそこに疑問を持つ感じでも無く、行きとは違ってキョロキョロと周りを確認しながら歩いてる。

「ちゃんと覚えなきゃ、一人で来れなくなっちゃうからさ...」

あそこにコンビニ...そこに花屋さん...と、ブツブツ独り言を呟きながらふわふわと歩いてたと思ったら

ポケットから小さなスケッチブックを出してサラサラと何か描き始めた。

「何描いてるんですか？」
「んー？自分用の地図」

そこには道なんかは描いてない、コンビニのイラストや花屋のイラストを描いてるだけのまさに『自分用』って雰囲気の地図。

「ちゃんとした地図を読むのは苦手なんだよねぇ」
「フフッ、私もです」
「車の助手席に乗ってても全然助手にならないって、いっつもフジ...あ、運転してくれる子に怒られるんだぁ」
「でも今の時代はカーナビありますからね、地図なんて読めなくって良いんですよ」

地図苦手人間が一番言う言い訳。

それを分かってるから、私と大野さんは顔を見合わせて笑った。

会社に戻り、大野さんと一緒にオフィスを覗くとニノミヤがデスクでマウスを動かしながら組んだ脚の膝に乗せた本をパラパラと捲ってる。

「あ、ニノだ」
「仕事してますね」
「ウソ眼鏡してる」
「気持ちを切り替える為だけの仕事用ですからね」

ヒソヒソ話してたら、ウソ眼鏡がこっちを向いた。

「あ、見付かっちゃった」

大野さんが楽しそうに笑ってるけど、ニノミヤは対照的に眉間に皺を寄せて顎をツンと上げながらこっちに歩いて来た。

「おじさん、何してんの」
「何って、ニノが来いって言ったんでしょ？」
「言ったけど何でセンパイと一緒に居んの？センパイ、今日直帰だったはずだけど」
「おれが捕まえてギャラリーまで送って貰ったの」

サラリと言ってのける大野さんに、あろうことか

「この、泥棒猫が」

ニノミヤは昼ドラかよ...って言葉を、吐き捨てた。