極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ16)

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226.CONFIDANT。ページ16

その日の帰りだった。

「ちょっと、A！」

帰ろうとしてたロビーで、思いっきり腕を引っ張られた。

「うわっ...、あ、カンナ」
「今から少し時間ある？」
「え...うん、あるけど...」
「じゃ、お茶でもしましょ」

私の腕を掴んだまんま、カンナは会社を出る。

「カンナ、どうしたの？」
「Aに伝えとかなきゃいけない事があるの」

入った駅前の喫茶店でお互いコーヒーにミルクを入れながら、顔を見合わせた。

「伝えたい事？」
「うん、あのね...、あの、長瀬さん...なんだけど、うちの雑誌で仕事して貰う事になって...」
「あぁ...その事か」
「え？知ってたの？」
「うん。...ってゆーか会っちゃったの」

目の前のカンナが私を見たまま、ポカンと口を開いた。

「え...？え？どうゆーコト？」
「そのままの意味だよ、会っちゃったの。エレベーターで、バッタリと」
「あ...あぁ、そうゆーコトか。ビックリした」
「フフッ、他にどんな意味があんの」

まぁ...色々？とカンナが呟いて、私も「まぁ...そうだね」と呟く。

カンナは、私と智也が付き合う事になったトコからあんな別れ方をしたトコまで全部知ってる。

だから私を心配してくれるのも、分かる。

「A...どうだった？久々だったでしょ？顔合わせたのって...」
「うん...フフッ、そうだね。動揺はしたよね」
「そりゃそうか」
「そりゃそうだ」

熱いコーヒーを静かに喉に流す。
少し、砂糖が足りなかったかな...苦い。

「長瀬さんがロンドンから一時帰国してるから、この機会に...って編集長が張り切っちゃって...」
「そっかー...それで智也、仕事って言ってたんだ...」
「部署変わったからAと顔を合わす事は無いって思ってたんだけどね」
「会っちゃうんだねー、ビックリだわ」
「...A...」

一口も口を付けずにただ両手の中にカップを包んでるだけのカンナが、眉を顰める。

「大丈夫...？」
「...うん、大丈夫だよ？私もう彼氏もいるんだし」
「そっか。そうだよね、Aには魔法使いがついてんだもんね！」
「そうだよー！魔法使いどころかアイツは大魔王だと思ってるよ、私は」

私が笑うと、カンナもやっと笑った。

「...ありがとね、カンナ」
「ううん。...何かあったら相談してよ？」

そう言うと彼女は初めてコーヒーに口を付けた。

カップを包む、母親らしく爪を切り揃えた指。

その薬指に光る指輪を、私は何となく今までとはちょっと違った気持ちで眺めてる事に気付いた。