極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ15)

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225.苦甘い。ページ15

すぐにオフィスへ戻る気にもなれなくて、私は久し振りに喫煙室へと寄った。

最近吸ってなかったせいで煙草を持って来てなかったから、そこにある自販機で買って

壁に凭れ一本唇に挟み、ライターだって持ってなかったって事にやっと気が付いた。

「...ハァ...」

溜息と一緒に離した煙草には、うっすらと赤いグロスがついてしまってる。

何だかそれが、だらしなく見えてしまってまた溜息が零れる。

「お？センパイ」

カチャリ、と喫煙室のドアが開いたと思ったらニノミヤが入って来て「ここで会うの、久々じゃね？」なんてクスクス笑いながら

私の隣に並んで、同じように壁に凭れた。

「吸わねぇの？」

自分の煙草に火を着けてふわりと紫煙を吐いたニノミヤが、不思議そうに私を見る。

「...あ、うん。ライター無くて...」

グロスが付いてしまってる煙草を掌の中に隠すようにすると、彼が私の肩に手を乗せた。

「火、あげるよ」
「え？」
「お裾分け、したげるから。ほら」

火のついた煙草を唇に緩く挟んだニノミヤの口角が上がる。

「はやふ、くわへろっへ」
「フフッ、ちゃんと喋れてないってば」
「ンフフ...いーはら、はやふ」

煙草を咥えたまま喋るニノミヤの目が、ふっと細くなって

その表情にドキンとした。

私が煙草を咥えると、まるでキスをするように顔を傾けたニノミヤがその先端同士を触れ合わせ

その瞬間、チリチリ...と小さな音がして私の煙草の先も赤くなる。

久々の煙の味に、少しだけ頭がクラっとして軽く目を閉じた。

「ねぇ、センパイ」
「...ん？」
「土曜、何時から？オレ、式場まで送ってやるけど」
「あ...うん、ありがと。けど、友達と駅で待ち合わせて皆で一緒に行く約束してるから...」
「そっか」

ニノミヤは、やっぱり口角を柔らかく上げて頷く。

「ニノミヤ...」
「ん？」
「...ごめんね」
「なぁにがよ」
「えっ...あ、せっかく送るって言ってくれたのにね、お断りしちゃったから！」
「ンフフ。別に気にすんなや、そんなの。土曜は久々に昼まで寝よっかなー」

思わず出てしまった「ごめんね」の意味は、本当にそれだったのか...何なのかよく分からない。

「...ニノミヤ、好きだよ」
「はっ！？なっ...どしたどした！？」

ゲホッと咳き込んだニノミヤが焦った顔をしたのは、ほんの一瞬で

「オレの方が好きだわ」

ばぁか、って彼は私の頬に軽くキスをする。

「...職場だよ」
「職場で愛の告白したのは自分でしょうが」

苦い煙が、甘く感じる。