極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ13)

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223.エレベーター。ページ13

ニノミヤの細い腕は、意外と寝やすくて

彼に抱き締められてると、私は朝まで一度も目を覚ます事なく熟睡できる。

でも、たまに苦しい。

脚まで絡み付けられてるから、身動きが取れない。
熟睡してる時は良いけど、覚醒してからこのがんじがらめは苦しい。

「...カズ...」
「ん...」
「起きなきゃ、会社だよ？」
「...めんどっくせー...」

寝起きのカスカスの声で呟くと、私を更にぎゅうっと抱き締める。

「面倒だけど、しーごーとっ！」
「このままAを抱いて1日を終えたらいけませんか？」
「いけません」

クスクス笑い合って、ニノミヤがオデコに軽くキスをくれる。

何て平和で幸せな朝なんだろう。

もう二人の関係を隠してる訳でも無いから、私達は揃って出社して

それぞれに自分の仕事をこなす。

お昼休みの後、違う部署に用があって出向いた帰り

私はボケーっと、ホント、ボケーっと

エレベーターに乗り込んで

込み上げてくるあくびを押し殺しながら、俯いた。

だから閉まりかけた扉に長い脚が突っ込まれたのにも気付かなくて

「すいません！俺も乗せて下さい！」

その声に「あ、どうぞ」と顔を上げた時にやっと

止まりそうになった心臓に、一瞬目眩がした。

「...えっ...！？」
「あ...！」

エレベーターの小さな箱に乗り込んで来たその人の後ろで、静かに扉が閉まる。

「A...」

髭をたくわえた日に焼けた肌は、あの頃よりずっと男らしく感じる。

「え...何でここに居るの...？」
「あ、うん...仕事で」
「そ...だよね、うん。仕事だよね...」
「うん。仕事」

頭一個分は上の方から落ちて来る、低い声。

綺麗な二重は、あの頃のままだ...。

「...元気だった？A」
「うん...まぁ、元気...かな」

彼が小さく頷く。

「...智也...あ、えっと...長瀬さん...は元気だった？」

自分でも驚く程に、声が震えてた。

こんなに動揺すると思わなかった。

「うん、元気だよ。今は、ね」

彼の大きな目が、ゆるっと細くなる。

その表情に、いつも胸を締め付けられてた事を思い出して

何なんだか分からない気持ちになる。

そのままお互い向き合ってると、彼の背後で扉が開く。

「あ...私、ここで降りるから...」
「あ、そっか。うん」

彼が端に寄って私が出やすいようにしてくれた横を俯いて通り、エレベーターを出た。

「あ...A！」

呼ばれ、振り返ると

「...また、会える？」

彼が言ったと同時に、閉まりかけてた扉が閉まった。