極楽ハニー 7th【ars K.N】 (ページ2)

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212.既視感。ページ2

大野さんが仕事のお話をしてる間、私は彼らから少し離れて飾られてる写真を眺めていた。

「...ん...？」

微かに感じる、既視感。

だけど、私がここにある写真を見るのは初めて。

ちょっと写真に近付いて、マジマジと見てみても見た覚えの無い写真ばかり。

だけど、やっぱり既視感がうっすらと胸の中に漂う。

「センパイさん、ごめんねぇ。お待たせ！」
「あ、もう良いんですか？」

綺麗な女性が写る写真を見てた私の隣に大野さんが立つ。

「うん、もう大丈夫。今日は下見だからねぇ。細かい打ち合わせは、また今度」
「そうなんですか」
「打ち合わせとか苦手なんだよねぇ。おれ、絵描きだから他に何も出来な...あ、ごめんね。電話が...」

ポケットからスマホを出した彼を見ながら、何も出来ないなんて言ってるけど色々出来るんだろうなぁと思う。

だって、鼻歌も上手かったし。
字も綺麗だったし。
英語喋れるのも知ってるし。

「LINEだった。ニノから」
「え？」
「おれが頼んでた洋書が今届いたから、まだこの辺に居るなら来いってぇ」
「じゃあ、一緒に戻りましょうか！」
「うん、帰り道分かんなかったから助かる」

会社からここまでの道を覚えられなかったってのは、方向音痴は結構重症なのかもしれないなぁ...なんてちょっと微笑ましく思ってたら

「あ、めっちゃイケメンだぁ」

大野さんが一枚の写真を見て呟いた。

「おれもヒゲ伸ばしてみよっかなぁ」
「大野さんがヒゲですかぁ？」
「似合わないかなぁ？だってほら、格好良いよ！」
「どれですか？」

何気無く、大野さんがマジマジと見てるその写真を覗く。

「...え...」
「あ、この人が写真家さんなんだぁ」
「...そ...みたいですね...」
「撮る方なのに撮られる方よりイケメンだったりしてねぇ」

無精ヒゲをたくわえ、くっきりした目元を細めて笑う少年のような表情。

その写真の横には、この個展を開いたカメラマンであるその人のプロフィールと経歴が記されている。

ヒゲのある顔は知らない

髪ももう少し長かった気がする

だけど、その表情もその名前も

...私は、知ってる。

並んでる写真に既視感を感じたのは、その写真を見た事があったからじゃない。

この写真を撮る人を知っていたから。

何度も何度も

この人が撮る写真を、見ていたから。

ギャラリーを出て、気付く。

どうしてさっき気付かなかったんだろう。

その出入り口には、彼の写真展だとしっかり書いてあったのに。