極楽ハニー 5th【ars K.N】 (ページ6)

今日:7 hit、昨日:11 hit、合計:1,592,524 hit

146.魔術師の言葉。ページ6

優しい目付きのニノミヤに、胸の奥がギュっと縮む。

「...でも朝からお弁当作るの大変だし...良いよ、今までと同じで。気にしないで？」
「別に弁当じゃなくっても、いくらでも昼飯を断る理由なんて作れるわ。オレを舐めんなよ？言葉の魔術師って言われてんだかんな？」

それ誰が言ってんの...って思ったけど、フザけてるような言葉の裏に彼の想いを感じて益々胸がギュギュっとなる。

「ごめんな、やな想いさせて」
「...ううん」

頭に乗ってるニノミヤの掌がふわふわと跳ねて、私の心もふわふわと軽くなった気がした。

「Aもトーマみたいなイイオトコとはあんま二人になんないで...よ？」
「え...？」
「いや...まぁさ、オトコとランチ位って言っちゃったのはオレなんだけどぉ...そのオトコってのは禿げ上がっちゃってる上司とか...その辺を指してたってゆーか...」

自分の顎を指でスルスルと撫でながら、ボソボソと話す。
ちょっと聞き取りにくい。

「だって、トーマがその気無くなってもAの気持ちが変わるって事はありえるんだからさ...何かやっぱ...」

段々と、今度はニノミヤが項垂れて行く。

その内、彼の旋毛が見えてボソボソ話してる声もよく聞こえなくった。

「カズ」

さっきまで私が撫でられてた頭

交替するように、私がニノミヤの頭に掌を乗せる。

「私、悔しいけどクソ生意気なカズの事しか見えて無いの」
「...は？」
「ねー、ホント何でだろうって思うんだけど。口も悪いし上から目線だしワガママだしね」

何だよ、悪口？って笑いながら彼が顔を上げる。

「悪口に聞こえた？」

ニノミヤの柔らかい髪を梳くように撫でると

「んーん。熱烈な告白に聞こえた」

そう言って子犬みたいにあどけなく微笑み、私をギュウっと抱き寄せた。

二人とも中腰だったから、バランス崩して私はニノミヤに倒れ込んじゃって

ニノミヤは私の重みで後ろに尻餅をついちゃったけど

「A、すっげぇ安い台詞吐いても良い？」
「ん？」
「言葉の魔術師が聞いて呆れる位の安さなんだけど、良い？」
「フフッ。ねぇそれ、誰が言ってるの？」

彼の薄い胸の中で笑える瞬間が、たまらなく好き。

「オレ、幸せだわ」

彼の言う『安い台詞』は、私の心を彼でいっぱいにした。

「私も」なんて安い台詞は、返したくないのに

なのに

「カズ、私もだよ...」

痛い位キツく抱き締められた私の口は

安い台詞を、これ以上無い程、それこそ熱烈に零してた気がする。