極楽ハニー 5th【ars K.N】 (ページ29)

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169.LIELIE。ページ29

シャレた内装の、シャレた定食は一つも無い社食で

藤堂さんは肉じゃが定食を食べて、私は煮魚定食を向かい合って食べる。

「ねぇ、Aさん」
「はい？」
「私、別にこの辺に用事なんて無かったの」
「...はい？」

モグモグと頬を膨らませてる藤堂さんが、ちょっと悪戯っ子のように話す。

「用事があったとすれば、ここにあったんだよね」
「ここ...うちの会社にですか？」
「うん、ってゆーかあのオフィスに」

お茶を手にして、頬の中をスッキリさせた彼女はニッコリと笑った。

「だって、ここに来れば二宮さんに会えるでしょ？」

煮魚が、喉に詰まって「ゲホッ」と可愛げの無い咳が出た。

「ニ...ニノミヤですか...？」
「うん。好きな人に会いたくなるのは、普通の事じゃ無い？」
「はぁ...まぁ...ですよね...ハハッ」

分かる、その気持ちは分かる。

だって、私なんて毎日会ってても寝る前は寂しくって朝になると「早く会いたい」って思うんだから。

だけど、そう想う対象が私と藤堂さんは同じニノミヤだって事が、しかも私はそれを隠してるって事が本当に心苦しい...。

「さっき、実はオフィスに入る前にちょっと見てたんだけど...」
「え？見てたって...何をですか？」
「二宮さんと、Aさんを」
「...え？」

さっきまでニコニコしてた藤堂さんの表情が、一瞬で変わる。

「凄く仲良さそうに見えたんだけど、二人」

涼しげな声が、初めて冷たく聞こえた。

「好きじゃないんだよね？」
「...あ...」
「好きじゃないって言ってたもんね？」
「...そ...ですよぉ、何言ってるんですかー！」

心臓がバクバクする。

嘘をつくのって、こんなにしんどかったっけ...？

「だよね！じゃあ、お願いしても良い？」
「え...お願い、ですか？」
「うん、二宮さんをデートに誘って欲しいの！」

...おー...凄い...私物凄くドラマチックな展開に巻き込まれてない？

ヤバくない？ってか、今更ヤバいと思うのが手遅れ感ビンビンじゃない？

「私が...ですか？」
「うん。何か都合悪い？」
「都合...は、悪くないです...けど」

立場が悪いです...

「明日の土曜日、うちに迎えに来て欲しいって伝えて貰えるかなぁ...？」
「迎えに...」
「二宮さんの車、久々に乗りたくって！」

そりゃね、私以外の女があの車に乗ってたのは当然。

だってモテモテだ。
女遊びの噂も絶えなかった。

なのに、私は何でこんなに胸の中が真っ黒なんだろう...やだ。