極楽ハニー 5th【ars K.N】 (ページ27)

今日:5 hit、昨日:3 hit、合計:1,592,511 hit

167.ネズミ色。ページ27

藤堂さんは、キッチリと原稿を出してくれる人だった。

それは凄く有難かったんだけど、私が自宅を訪れる度に

「二宮さんは、元気？」って訊かれるのは、ジワジワと真綿で首を絞められてるような気持ちになる。

やっぱり最初に言えば良かった...せめて、「彼女はいるっぽいですよー」くらい言えたでしょ。私。

一つの嘘は、どんどんその嘘を大きくするだけなのに...

「...ハァ...」

デスクに突っ伏して溜息を吐き出すと、背後からパーカーのフードを頭にカポっと被せられた。

「おい、ネズミ男」
「...うるさいよ...」
「ビビビって言って？」
「...うるさいって...」
「オレ、この色やだ。嫌い」

グレー(ニノミヤ的には『鼠色』)のパーカーのフードに包まれた頭を、パコンと叩かれる。

「いっ...！」
「センパイは服の色に気分を左右されるっぽいから、これもう着んな」
「...え？」
「さっきから何度も何度も溜息吐き過ぎなんですけど。いい加減、心配通り越して鬱陶しいんですけど」

フードを指で挟んで頭から脱がしたニノミヤが、突っ伏してる私の顔を覗き込んで来る。

鬱陶しい、とか言われて実はちょっと凹んだけど

「どったの」って小さな声で訊くニノミヤの表情は、優しすぎでしょって文句言いたくなる程に優しくて泣きたくなる。

「...ちょっと疲れちゃって...」
「アレか？センパイお得意の『頑張り過ぎ』か？」
「何それ」
「センパイは自分のキャパ超える位頑張り過ぎんじゃん。一人で抱えんなよ？」

仕事量ヤバかったら、オレも手伝ってやるから！って、ニッと笑ったニノミヤは頼りになる後輩だなぁ...と思う。

だけど、私のお疲れの原因は仕事であって仕事では無くって...なんて、言えないな...。

「うん、ありがと。無理になったらすぐ言うから」
「無理になってからじゃ、おせぇわ。あー、もう無理そう...位の時に言えって」

グシャって雑に頭を撫でられて、珍しく編み込んで来た髪が崩れてないか気になったけど

でもそれ以上に、やっぱり嬉しい。

デレる口元を隠しきれずにニヤニヤしてたら

「Aさーん！」

オフィスに響いた、涼しげな声。

胸がドクッとなって、声がした方を見ると藤堂さんがフワリとワンピースを揺らしてこちらに歩いて来てた。

彼女は今日も、頗る可愛い。