極楽ハニー 5th【ars K.N】 (ページ24)

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164.トゲトゲポロポロ。ページ24

自販機でニノミヤが缶コーヒーを買ってる後姿を見ながら、やっぱり無駄にオシャレぶってる休憩スペースの椅子に腰掛ける。

カコンとプルタブを開けて渡されたコーヒーは、私がいつも飲んでるやつだった。

「よいしょ」って呟いたニノミヤが、私の隣に座ってチロッとこっちを見たのが分かったんだけど

あえてそっちを見ずに居たら、ツンツンと腕をつつかれた。

「...センパイの質問に全部答えます」
「何それ」
「いや...オレに訊きたいコトあるんだろうーなーって思って」

あるわ！

ありすぎて、ヨリドリミドリだわ！

「ニノミヤ、単刀直入に訊くけどさぁ...」
「うん」
「藤堂さんと何か関係があったってコト？」
「...関係は、作家と元担当者ってだけだけどね？」
「じゃあ、何で隠してたの？」

私が『藤堂キサキ』って名前を出しても、彼はその事を言わなかった。

「...まぁ......告られたってゆー過去が...ありまして...」
「告られ...」
「いや、もちろん断ったよ？」
「あー、付き合わなかったけどヤっちゃった的な？」

言ってしまった瞬間、下品だったなぁ...と思ったけど、自分が思ってる以上に今の私はイライラしてるみたいで

その言葉を取り消そうとも思えない。

「...それもねぇよ。作家には手を出しません。大切なうちの商品なのに」
「だったら...」
「そうなんだよな、あん時に知ってる作家だって言えば良かったんだけどセンパイに変な心配させたくなくって咄嗟に隠しちゃってさ」
「黙ってたせいで余計に勘繰ってるけど、私」
「うん、だからごめんなさい」

ちょっと項垂れたニノミヤの髪が、サラリと顔を隠す。

「...別にニノミヤがモテるコト位、もう今更なんだけど」
「え？」
「告られたって聞いた程度では驚かないよ、ってコト。隠し事される方がやだ」

ポコン、とニノミヤの腕を軽く殴ると

彼は「いてっ...」って小さく零して、私の拳をキュっと掌で包んだ。

誰かに見られる！...ってちょっと焦ったけど、私達の他には誰も居なくって

「隠し事、もうしないから」
「......」
「...ごめん」
「うん...」

トゲトゲと尖ってた心は、包まれた掌のあったかさでポロポロと棘が抜け落ちる。

「...ホントに藤堂さんとは何も無い？」
「ん。信じて、A」

本当は不安で仕方無かった私の唇を、ニノミヤの唇が優しく、ほんの一瞬だけ塞いだ。

少し、コーヒーの味がした。