極楽ハニー 5th【ars K.N】 (ページ19)

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159.檸檬リーマン。ページ19

駅前に着くと、ニノミヤは「煙草切れたから買って来るわ」ってコンビニに走ってった。

改札の前で彼が帰って来るのを待ちながら、涼しくなったと言ってもちょっと滲んで来る汗を拭く為に鞄からハンカチを出してオデコに当てた。

そのハンカチを鞄に入れ直そうとしたら、手からハンカチが滑り落ちて

拾おうと身体を屈めると、私より先にハンカチを拾う手。

「はい、どうぞ」
「あ...」

私にハンカチを差し出して微笑むサラリーマン。

育ちの良さそうな笑顔に、不覚にもドキッとしてしまった。

「ありがとうございます...」
「いえ」

微笑んだまま会釈したサラリーマンを見て、これが漫画やドラマだったら間違い無く『運命の出会い』ってやつだわー...と思ってると

「はいはい、どうもありがとうございます。うちの姫がお世話になりましたー」

ガシっと私の肩を抱いたニノミヤが、信じられない位に失礼な態度でイケメンサラリーマンに向かって吐き捨てた。

「カズッ！？ちょ...っ」
「ニノっ！？」
「えっ！？」

目の前のイケメンサラリーマンの真ん丸な目が、更に真ん丸になる。

「ちょっと翔ちゃん、何ヒトの彼女と運命の出会いブチかましてくれちゃってんのよ」
「えっ！？じゃあ、彼女がセンパイさん！？うわっ...初めまして、櫻井翔って言います。あ、ニノの高校時代の友達で...ちょっと何コレ、ビックリだわ」

眉を八の字にして笑ってる、櫻井翔。
きっと彼が、前にニノミヤが言ってた『翔ちゃん』とやら。

...ラスボス感、ハンパ無いな。櫻井翔。
レモンから産まれて来たのかい？と思ってしまう爽やかさ。

こんな爽やかなサラリーマン、見た事無い。
ニノミヤもサラリーマンだけど、ここまでの爽やかさは持ち合わせて無い。あ、ごめん、ニノミヤ。
格好良いとは思ってるから、許して。

「翔ちゃん、こんなトコでどしたの」
「こんなトコって...ここ、俺の会社もあるんですけど。むしろ、何でニノが駅に居んの。家あっちだろ」
「オレ、まだ仕事残ってて電車使うのよ」
「そうなんだ。大変だな」

何となく流れで三人で改札を通ると、ニノミヤだけが逆方向の電車だと判明した。

「じゃ、翔ちゃん。Aと途中まで一緒だと思うけど誘惑しないでよ？」
「俺、婚約者居るんですけど」
「A、気を付けてよ？」
「俺、婚約者居るんですけど」

そして頗る爽やかな櫻井さんと私は、初対面で同じ電車で途中まで一緒に帰る羽目になってしまった。