極楽ハニー 5th【ars K.N】 (ページ17)

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157.浮かれる。ページ17

私のキーケースに一本、鍵が増えた。

自分ちの鍵より少し大きめな、ニノミヤんちの鍵。

きっと重さなんてほとんど変わってないのに、そのキーケースはズッシリと重くなったように感じる。

「A！」

食堂の食券販売機前に居た私に、カンナが声を掛けて来た。

「あー！久し振り、カンナ！」
「今日は何にするのー？」
「うんとねー...カツ重かな」
「良いねぇ、私もそれにする！」

二人で、きっと若い可愛い女の子は選ばないだろうって雰囲気出しまくってるカツ重を持って席に座る。

「どう？最近の魔法使いは」
「えー...ココロの鍵を貰った」
「何それ。魔法使い、ホント奇天烈なんだけど」
「アハハッ！単に部屋の鍵！ちょっと変な奴だから言う事おかしいけど」

ホント、言う事色んな意味でおかしいけど...

あんなキザな台詞をポンポン出して来る男なんて他に存在するのかな...否。居ないでしょ。

「凄いじゃーん！合鍵って結構クルよね！？」
「クルクルー！もうね、恥ずかしいけど泣いちゃったもん」
「やだ！A可愛い！まだ乙女なのね！ズルイ！」
「ズルイって何よ」

ケラケラ笑って、色気の無いカツ重を食べながらそんな話をするのが楽しい。

「恋は順調な訳ね」
「うん、お陰様でー...なんて浮かれて言っても良いのかな」
「良いんじゃない？幸せなのは良いコトよ」

もう子持ちなのに、やっぱりまだ二十代のお嬢さんに見えるカンナが綺麗に笑う。

「A、仕事はどうなの？」
「あー、実は今度担当する作家さんが結構人気のある人でね？ちょっと頑張らなきゃ！って思ってんの」
「じゃあ仕事も順調なんだ。ノッてるねー！」
「ねー！波が来てるよねー！」

完全に浮かれてる。

でも、大人だからって浮かれちゃ駄目だなんて

はしゃいだら駄目だなんて

誰が決めたの？

そんな風に思ってた。

軽く、思ってた。

「その作家さんって誰なの？」
「カンナ、知ってるはず。こないだカンナの雑誌で特集されてたから」
「あぁ！あの娘か！」
「まだ会っては無いんだけどね」

恋も仕事も順調だなんて、そんなドラマみたいな話は絶対に無いって思ってた私は

最近の色々に『そんなコトもあるんだね』って、考えを改めさせられる。

だけど

やっぱり浮かれて欲張りになってると、いつか痛い目を見るもんなんだなって

その時の私は、想像もしてなかったんだ。