極楽ハニー 3rd【ars K.N】 (ページ8)

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78.正解。ページ8

背の高い生田さんを少し見上げながら、私は言葉を探した。

だけど、何も言葉が出て来なくて

唇を噛む。

「Aさん...？あ、やっぱ迷惑だったよね！？ごめんなさい、帰るね！」
「えっ...あっ、あの...迷惑じゃないです！...大丈夫だから...」
「...大丈夫...？」
「はい」

私がコクンと頷くと、生田さんは安心したように小さく息を吐き出した。

「Aさん、明日の夜って時間ある？」
「...明日、の夜ですか？」
「うん。お食事、行きませんか？」
「ラーメンですか？」
「アハハッ！それも良いんだけど...」

微笑む生田さんが「もうちょっと、大人の男女に似合うようなお店に」と

それこそ、大人の雰囲気を纏った声を私に落とした。

「あ、返事は今じゃなくて良いから！これ...」

無造作にジーンズのポケットから出された一枚の紙切れ。

電話番号が、走り書きされてる。

「また、時間ある時に連絡して！もちろん、食事行きたくないってゆーお断りも遠慮せずに」

ニッコリと優しげに目尻を下げ「じゃあ、時間取らせちゃってごめんね！バイバイ」って彼は手を振って、廊下を歩いて行った。

電話番号の書かれた紙切れを小さく畳みながら、私は自分のデスクに戻る。

背中合わせの席で、ニノミヤは書類に目を通してる。

...何か...言われる？って、やっぱり馬鹿な私は期待して

手帳を広げて、折り畳んだ紙切れを挟んだ。

「...ねぇ、センパイ」
「えっ...？」

いつものように、椅子に座って転がって来たんじゃなくて

横に立って、私を見下ろしてるニノミヤを見上げる。

「頼まれてた資料、集まったよ」
「え...？」
「これ、はいどーぞ」

パサッと机に置かれる、書類の束。

「あ...ありがと...」
「じゃ、オレ今から先生んトコ行ってそのまんま直帰だからさ！」

ニッと笑うと、自分の椅子の背凭れに引っ掛けてたジャケットを手にして

「お疲れ様、センパイ」

ポン、と私の肩を叩いてオフィスを出て行った。

馬鹿だな、ホント...

何度同じ事を繰り返してるの？

勝手に期待しては、勝手に傷付いて。

肩に残る、ニノミヤの手の温もり。

冷たい手、してるくせに

こんな時ばっかり、熱を残さないでよ...

夜、自分の部屋で私は手帳に挟んだあの紙切れを広げ

スマホを手にした。

「明日、お食事行かせて頂きます」

私の言葉に、電話の向こう側の生田さんは「マジで！？ありがとう！」と笑ってくれて

これが私が出すべき『正解』な気がした。