極楽ハニー 3rd【ars K.N】 (ページ7)

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77.灰色より赤。ページ7

窓の外は午後になっても雨が降り続き、どんよりと灰色の空。

「あれ？センパイ、今日は暗いね。空の色に合わせた？」
「え？何の事？」
「これ」

椅子でコロコロ滑って来たニノミヤが、私が羽織ってたグレーのパーカーのフードをキュッと摘まむ。

「赤いのは？」
「昨日持って帰って洗濯機の中。でも、いつ洗濯出来るんだろー...」

パーカーって結構厚手だし、部屋干しよりやっぱり太陽で乾かしたいけど

梅雨入りしたばっかでは、なかなか難しいかな...。

「じゃあ、早く晴れたら良いなぁ？」
「え？」

摘まんだフードをユラユラ揺らしながら

ニノミヤは緩く片方の口角を上げる。

「オレ、あの赤いの好きだから」

好き、なのはあの赤いパーカーの事。

分かってるのに、好き、って言葉にトクトクトクと胸が高鳴ってしまう。

「だってさぁ...」

少し唇を尖らせたニノミヤが、私の頭にフードをカポッと被せた。

「これじゃ、ネズミ男みたいだもん！フハハッ！ビビビって言って！」
「はぁ！？もう何なの！？うるさいなぁ！」

ちょっとでもドキドキしてしまった自分に心底嫌気がする。

どれだけニノミヤに振り回されたら気が済むの、私！

もう...そーゆーの嫌なんでしょ...

何考えてるか分からない人を想い続けるの、しんどいんでしょ...

被せられたパーカーを雑に脱ぐと、「髪ボサボサになっちゃってるよ」って

ニノミヤの手が、ふわりと頭を撫でて

スルスルと手櫛で私の髪に指を通す。

きっとニノミヤにとっては、何でも無い一つ一つの仕草が

私には、苦しくて苦しくて

もうやめてよ！って思うのに、それを言う程の思い切りも無い。

私は髪に通されるニノミヤの指の感覚が、嬉しいんだか辛いんだが分からなくて

ただ目の前のPC画面をじっと見ていた。

その時

「Aさん！」

突然呼ばれた私の名前に、ニノミヤの手の動きがピタリと止まり

スッと私の髪から、その手が離れた。

声がした方を見ると、オフィスの入り口で軽く手を挙げた男性。

「トーマ...」

ニノミヤが、ボソッと呟く。

私は慌てて立ち上がって、生田さんの所へ行った。

「どうしたんですか？」
「さっきまで打ち合わせでね、今終わったから...」

生田さんが、柔らかく微笑む。

「Aさんに会いたいなって思って...ごめんね、仕事中に」

その言葉に、泣きそうになったのは

どうしてなんだろう。

どうしてなのかな...。