極楽ハニー 3rd【ars K.N】 (ページ5)

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75.AGITATION。ページ5

翌朝は、昨日の雨が嘘みたいに晴れていて

真っ青な空に偽物みたいな雲が浮かんでいて、何だか私を責めてるように見えた。

昨日のニノミヤの目を思い出すと、憂鬱になる。

何を言われる？

『昨日はデートだったの？』とか？

『センパイ、肉食だね！』とか？

『お持ち帰りされちゃった？』とか？

生意気な顔して、生意気に言うんだ。

面白がって、私の気持ちなんてひとっつも知らずに。

そんな事を考えながらオフィスに入ろうとしたら

中から、ニノミヤが出て来た。

「あっ...」

本をパラパラと捲ってた彼は私が出してしまった小さな声で、本に向けてた顔を上げた。

「あ、おはよ。センパイ」
「...おはよ」

私の予想は、どれも違ってた。

どれも...と言うか、根本が違ってたんだ。

ニノミヤは、挨拶だけすると私の横を通り過ぎてった。

何も言わず、いつもと変わらず

振り返ると、ニノミヤは向こうからやって来た若くて可愛い女子社員の子にピョンピョン跳ねながら手を振られて「何だ、そのノリ。学生かよ！」って笑ってる。

ホント、私はどこまでも自惚れてる。

興味が無い事、わざわざ突っ込むワケないでしょ。

ニノミヤは、別に私が誰と何をしてようが

お持ち帰りされようが、どうでも良いんだよ。

...そうだよ、そうだよね。

仕事中、空調がちょっと寒くて私は赤いパーカーを羽織った。

やっぱり、今でもこれを羽織ると少しだけ胸が鳴く。

それを誤魔化すように仕事をしてると、コロコロと椅子で滑って来てニノミヤが私の隣に並んだ。

「...何」
「この原稿チェックして貰って良い？」
「え？」
「オレさ、今日中にやんなきゃいけない仕事がすげぇあって...吐きそうなんだわ」

フラッシュメモリーを私に手渡し、後頭部をガシガシしながらニノミヤがしんどそうに言う。

「吐くならトイレ行きなよ？」
「フハハッ！バーカ、本当に吐くワケじゃねぇよ」
「バカって...」
「だもんで、ヨロシクしても良い？」

ニコっと小首を傾げて微笑む。

天使の顔した、悪魔の囁きだ。

「...はいはい」
「センパイ優しいね！」

ニノミヤはコロコロと自分のデスクに戻り、また立ち上がる。

そして私の背後に立ったと思ったら

パーカーのフードを私に被せた。

「赤ずきんさん、お願いね？」

フードを被った頭に、ポフポフとニノミヤの手が跳ねて

彼はそのまま部屋を出て行った。

心が乱される。

私はフードをギュっと下に引っ張って、顔を隠した。