極楽ハニー 3rd【ars K.N】 (ページ30)

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100.ココロチラリ。【side TO-MA】ページ30

「何だよ、それ。じゃあ、最初っから勝負決まってたんじゃん」

ニノの話を聞いて、俺は自分が一人相撲だったんだなってちょっと情けなくなった。

「決まってねぇよ。だってオレ、一回センパイにフラれてたし」
「えっ！？まじで！？」
「うん、結構なフラれ方よ？カッコ悪ぅいフラれかぁたぁ♪よ」

ひと昔前に流行った歌を軽く歌いながら、ニノはビールを飲み干す。

「じゃあ、今から俺が頑張るのもあり？フラれてないし、まだ」
「...ふざけんなよ？」
「...怖い顔すんなよ！冗談に決まってんだろ！」

眉間に皺を寄せたニノが「トーマ、男前だからこえぇんだよ」って溜息と一緒に吐き出した。

「俺、またニノに負けたんだなー」
「負けた？」
「そうだよ。大学の頃からずーっと俺、ニノには負けっぱ」
「トーマ、それ真剣に言ってんの？」

心底驚いた、とゆーよーな顔をしてニノが口を開く。

「え...？だって...そうだろ？俺、いつだってニノには敵わないって思ってたんだけど」
「オレは、ずーっとトーマに勝てないと思ってたけど」
「えっ！？」
「オレもホントは作家になりたかったの、トーマ知ってるでしょ？」

そうだ。

ニノはオレと同じ作家志望だった。

「けど、トーマが書いたモン初めて読んだ時、あ、オレ駄目だって思った」
「...マジで...？」
「オレ、こんなの書けない。これ以上のモン書けない、無理だって。だから、せめて本を世に出す仕事がしたくて」

こうなりました、ってふざけた感じで鞄からカードケースを出して、名刺を俺に差し出す。

「だから、トーマが学生の内にデビューして、でっかい賞も取って...やっぱオレ、同じ土俵で戦わなくて良かったーって思ったわ」
「...ニノ...」
「でも、負けっぱなしは嫌だった」

その目も、変わらない。

柔らかい顔立ちのくせに、生意気な意思の強い目を見せる。

「センパイだけは、お前に渡せないって思った」

負けず嫌い、って訳じゃない。

ニノはどちらかと言えば、流れに身を任せてるような、そんな人に見えてた。

だけど、本当は

「センパイを一番好きなのはオレだから。これだけはトーマに絶対負けねぇよ？」

片頬を上げて笑うニノの気持ちは、強い。

「トーマのお陰でオレ、幸せ」
「それ、俺に言う？」
「...ごめんな」
「謝んな、虚しいから」
「じゃ、ザマァミロ」

軽くウィンクなんかして見せるニノに「それがお前らしいよ」って言って

悔しいけど、気持ち良く負けた。