極楽ハニー 3rd【ars K.N】 (ページ23)

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93.雨上がりの夜空に。ページ23

ロビーにあるソファに座ると、すぐにニノミヤが来た。

「お待たせ」
「ううん。全然待ってない」
「あ、そ？」

オレ、駿足だかんなー！って、得意気に口角を上げる。

並んで会社を出ると

「あ、雨上がってるよ！」

空は、雲が切れてちょっとだけ靄がかった月がボンヤリ見えた。

「駅まで送るわ」
「良いよ、ニノミヤの家と逆方向だし」
「鈍いなー。もうちょっと一緒に居たいってコトなんだけど？もー、言わせんなよっ」

照れるじゃーん、なんて言ってるけど絶対に照れて無いニノミヤが私の肩をポンっと叩く。

「あ、傘持ってやるよ。邪魔でしょ？」
「あれ？ニノミヤの傘は？」
「オレ、会社に置いて来た。鞄取りに行った時に窓から雨上がってるの見えたから」
「そうなんだ」

私が持ってた傘をヒョイと取って、ニノミヤは駅の方向に歩き出す。

雨上がりのアスファルトの匂い

湿気を含んだ風

隣に歩く、ニノミヤ。

何だか全部が愛おしく感じてしまう。

恋が実った時って、こんな感じだったっけ。

カツンカツンと、ヒールが音を立てて

トクントクンと、胸が甘く高鳴って

やっぱり、ニヤニヤと口角が上がってしまう。

周りには仕事を終えたサラリーマンやＯＬがいっぱい。

駅の近くになると、繁華街の方から遊んだり買い物を楽しんでた人達もいっぱいになる。

でもきっと、この中で私が一番幸せだ！とか、今日くらいは思って良いよね。

「ありがと、ニノミヤ」

改札の前まで送ってくれたニノミヤにお礼を言って「傘、ありがと」って受け取ろうと手を伸ばす。

「センパイって家にまだ傘ある？」
「うん。ビニール傘もあるし、折りたたみもあるけど...何で？」
「じゃ、この傘オレんちに持って帰るわ」
「え？」

彼は、私の傘をブラブラさせて微笑む。

「オレんちに泊まったりした時に雨降ったら、置き傘しとくと便利でしょ？」

...オレんちに泊まったり...

顔がカァっと熱くなったのが自分でも分かった。

そっか、そうだよ、そうゆー関係になったって事だよね...
分かってたんだけど、分かってたんだけど...

「じゃあ、センパイ。気を付けてね」
「う...ん！」
「ん？」
「う...ううん！何でも無い...」

昨日までは『片想いの相手(後輩)』だったのに、今は『彼氏』になってる事がやっぱり信じられなくって

恥ずかしくって

「なぁによ。お別れのチュウ？」
「いっ！いらないっ！」
「ンフフ、素直じゃないなぁ」

意地悪に笑う『彼氏』にドキドキする。