極楽ハニー 3rd【ars K.N】 (ページ14)

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84.COMPOSED。ページ14

某ヒカルちゃんの歌じゃないけど

唇に、ニノミヤの煙草の味が残ってる。

「あの、大丈夫ですか？」

しゃがみ込んで口元を押さえてる私を見て、喫煙室に入って来た男性社員が心配そうに言う。

「あ...はい...大丈夫です...」

フラリ、と立ち上がり私は逃げるようにそこを出た。

ずっとドクドクと、気持ち悪い位に脈打ってる心臓に眉を顰めながら廊下を歩いて

背中合わせのデスクに座ってるであろうニノミヤにどんな顔したら良いのか考えて

考えれば考える程、緊張なのか不安なのか、手が震えて来た。

オフィスの前で震える手をギュっと自分で握り締めて、唇を噛む。

意を決して部屋に足を入れると、ニノミヤは私の後ろのデスクじゃなくって上司のデスクの前に立って何か話してる。

少しだけホッとして、私は自分の席に座って午前中にしてた仕事の続きに取りかかった。

「センパイ」

ふいに肩に手を乗せられ、キーボードを叩いてた指がビクンと跳ねた。

跳ねた指を隠すようにギュっと握り拳を作り、横に立ってるニノミヤを見上げる。

「センパイ、ごめん」
「...え...？」

...何が...？

何に謝ってるの？

さっきの、コト？

「オレ、今から出なきゃいけなくなちゃって...これ、オレの代わりに確認しといて貰っても良い？」
「え...？あ...仕事...？」
「うん、ごめんね。面倒な事頼んで」
「ううん。...気にしないで、大丈夫だから」

ありがと、ってニノミヤは微笑んで私に書類の束を渡す。

「じゃあ、オレ行くわ」
「...うん、お疲れ様」
「お疲れ様、ごめんね」

ポンポンと私の肩を叩いて、彼は自分のデスクから鞄を取った。

「あ、センパイ」
「何...？」

帰ろうとしてたニノミヤの背中がクルリと振り返る。

「誕生日プレゼント、ありがと」

ニコリと、それはそれは可愛い笑顔で平然と言ってのけて

「また明日」だなんて、いつもと変わらない言葉を残して

彼は、ヒラヒラと手を振った。

握ってた拳にギュウっと力が入る。

からかわれてるのか、何なのか分からない。

もしかして..？なんて、もう何度思ったんだろう。

だけど、その度に自分のバカさに呆れたんじゃなかったっけ？

デスクに置いてたスマホが、震える。

力の入らない手で手繰り寄せると、生田さんからのLINE。

『ハンバーグ、約束ね！あ、でも今度は一緒にお酒が飲みたいな。Aさんは飲める方？』

さっきまでちょっと心が浮かれてた生田さんの言葉に、今は胸が痛くなった。