極楽ハニー 3rd【ars K.N】 (ページ1)

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71.偶然必然。ページ1

真っ暗な空からは、次々と雨粒が落ちて来る。

結局雨は止むどころかどんどん強くなって、会社の前に立ち尽くす私のパンプスに地面に落ちた雨水が跳ね上がる程。

やっぱり私の新しい鞄に、折りたたみ傘は入って無くって

駅までの道、どうしようかと考える。

思い切って濡れて行っても良いけど、そうするとビショ濡れの姿で電車に乗らなきゃいけない。

...それは避けたい。
恥ずかしいし、何より身体が冷えちゃう。

タクシー...で駅までのワンメーターは小心者の私にはハードルが高い。

だからって、家までは無理！
いくらかかるの！？って話。

すぐそこのコンビニまでダッシュしてビニール傘を買うのが一番良い方法かな...と思って、雨の中に出た時だった

ププー、と車のクラクション。

別に車道に飛び出した訳でも無いのに何！？と、ちょっと苛立った気持ちでクラクションを鳴らした車を見る。

路肩に停まりハザードをたいたその車から、運転手が出て来た。

「...あ」

傘を差してこっちに走って来た、運転手は

「生田さん...」
「Aさん、お疲れ様！」
「お疲れ様です...え？まだこの辺に居たんですか？」
「うん。さっきまで、そこのカフェで取材だったんだ」

今、その帰り!って生田さんが差してた傘に私を入れてくれた。

「Aさんも、今帰り？」
「はい」
「傘は？」
「忘れちゃったからコンビニで買おうと思って」

生田さんは、私の視線の先にあるコンビニを見てまたすぐに私を見た。

「じゃあ、駅まで乗ってく？」
「え？」
「あれ、俺の車だし遠慮しないでよ。タクシー乗る程の距離じゃないでしょ？」
「...でも...」

正直、助かる...とは思う。
だけど、お昼も奢って貰ったし、その上運転手みたいな事させるなんて...

若くって雰囲気が軽いから忘れちゃいそうだけど、この人、うちの会社にとって大切な作家さんだし。

「Aさん？」
「...やっぱり、悪いです。そのお気持ちだけ頂きます」
「じゃあ...これからご飯食べに行かない？ってのは、どう？」
「はっ？」

『駅まで車に乗ってく？』が『ご飯食べに行かない？』に変わった意味が分かんない。

ふと生田さんの肩を見ると、私に傘を差し掛けてるせいで服の色が変わる程濡れてる。

「ホントは、Aさん出て来ないかなー？ってちょっと待ってた、とか言ったら引く？」

優しげに目尻の下がった生田さんの目がキュっと細くなり

私に、小さく微笑んだ。