極楽ハニー 10th【ars K.N】 (ページ9)

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324.どちらを選択。ページ9

私も慌てて腕時計を見ると、今からタクシーに乗って駅に着いても...電車は無い。

「さて、ここで選択です」
「はい？」

これからどうすんの...って思ってる私に、ニノミヤは呑気に人差し指を立てて小首を傾げ質問を繰り出す。

「いち。タクを使って家まで帰る」
「...えー...それ、いくらかかるの...」

ブー垂れてる私なんて気にせず、彼は立ててる指を二本にして

「に。あそこに見えてるトコに一泊」
「あそこ...？」

私が訊くと、彼は顎でクイっと私の背後を示した。

振り返ると、倉庫群の向こう側に一際派手な建物の一部がチラっと見えてる。
それが何なのかを「やだぁ、分からなぁい」なんて言えるような歳でもキャラでも無い。

「人生は選択の繰り返しよ？さぁ、どっちにする？」
「えー...」
「使う金は同じくらいかなー？下手すりゃタクのが高いかも」
「そうなの？」
「どうだろ」

どうなのよ、って笑うとニノミヤも「どうなんだろ」って笑う。

「ちなみにオレのオススメは二番ね」
「だろうね」
「広い風呂、広いベッド、無駄な設備！ほら、楽しい！」
「フフッ、無駄な設備」
「はい、決まりね！あ、今日土曜じゃん！部屋が埋まる前に早く行こ」

勢いよく立ち上がって、私の事も引っ張り立たせる。

そしてニノミヤは男友達にするように、ガバっと私の肩を抱いて歩き出した。

全然、色気なんて無い。

これからラブなホテルに行くような二人には見えない。

だけど、ほんの少し身体に残ってるお酒やさっきまでの甘い空気の余韻で

心は、ニノミヤでいっぱいになってて

そーゆー行為をする為のホテルの部屋に入った瞬間、抱き締められた私は

何だか、何故だか、泣き崩れそうな気持ちになった。

そんな私に気付いたニノミヤは、耳元で「何もしないよ」って囁いて

「...嘘つき」って言うと「何かされたかった？」って意地悪に笑う。

ジャケットを脱いだニノミヤが、それを雑にソファに投げて

少し緩めてたネクタイの結び目に指を引っ掛けて、キュっと引き下ろした。

解けたネクタイは足元に落ちて、でもそんなの気にもしない様子で彼はシャツのボタンをひとつひとつ、外す。

ジッと、私を見ながら

微笑みもせずに

自分のボタンを全て外した彼は、そのまま私のジャケットも脱がしインナーの裾から手を入れて

首に唇を押し付けた。

服がシワになるなんてコト、気にも出来ない行為の中

「...ついて来て...」

ニノミヤの、掠れた声が聴こえた。