極楽ハニー 10th【ars K.N】 (ページ11)

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326.フェイント。ページ11

「センパイにはオレの隣でずっと笑ってて欲しいんだ。センパイが笑っててくれたら、それだけで幸せ」

突然出されたとんでもない言葉に、何も言えずに居ると

「とか、言わねぇよ？オレ」
「...はい？」
「言うかよ。そんなの」

ケッ、って感じで顔を歪めたニノミヤが「ずっと笑ってるだけなんてキモイわ。どー考えても不自然だわ」って吐き捨てるように言った。

「生きてたら嫌な事もしんどい事もあるに決まってんじゃん。なのに『笑え』って、拷問かよ。泣いても良いし、怒っても良いし、むしろそーゆー感情をオレの前で出せや！って思うんだけど」
「...ニノミヤ...？」
「全部出せば良いよ。落ち込んでるなら、とことん落ち込んでる方が人間らしくてオレは好きだけどね」
「......」

きっと、傍から見ると単なる仕事の話をしてるようにしか見えないだろうってテンションで話す。

「だから、笑えない事を情けないだなんて言うな」

ニノミヤの声は、実は低いんだって...きっと、会社の皆は知らない。

そんな皆の知らない声で、彼は言葉を紡ぐ。

チラリ、彼の視線が私を見て

「無理すんな。笑えない日は笑わなくて良い。オレには嘘つくな」
「......」
「約束ね」
「...うん」
「センパイが自然に笑えるよーにしてやんのが、オレの仕事」

フフって小さく笑う。

「何か...隣にセンパイが居るだけで、もう良いや...オレ。離れないでよ、ね」

会社で言うような事じゃ無い。
おかしいんじゃないの？やめなさい！

頭ではそう言ってやりたいのに、心がそれを許してくれない。

「沖縄でさオレ、死ぬほど幸せにするって、言ったでしょ？」
「......ん」
「あれ本気だし。酔っ払ってたからな訳、無いじゃない」

ガラスから手を離したニノミヤは、少し呆れたように微笑む。

「ホント、鈍いよね」
「え...」
「鈍感力ってのも大切だって言われてるけど、センパイのはちょっと異常だわ」
「...は...？」

彼が、私の首元に手を伸ばしネックレスのダイヤを指先で軽く弾いた。

「花言葉ってあるでしょ？」
「うん...」
「それと同じように『石言葉』が宝石にはあるって、ファッション誌のお仕事してたセンパイなら知ってるよね？」
「知ってるけど...え...？」
「ダイヤ」

鳶色の目が、ジっと私の目を覗く。

「コイツの石言葉、知ってるよね？」
「...あ...」
「ちょっと、こっち来て」

ニノミヤが周りの目も気にせず私の手首を掴んで、歩き出した。