コイカゼ・ダイブ 3rd【ars M.A】 (ページ34)

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104.ナニヨリモ・ズット。ページ34

私のスマホはついさっき、何よりも価値のある物になったんだ。

電車の中でスマホをギュッと両手で握り締めながら、車内を見渡す。

目の前に座ってる綺麗なお姉さんが持ってる、そのモノグラムの鞄より

隣に座ってるやり手そうなお兄さんの腕にはまってる、その高そうな時計より

車窓の外を流れてった、高層マンションの最上階より

中吊り広告に書いてある『一等三億円！』の当選くじより

ずっとずっと、相葉先輩の連絡先入りのスマホは価値がある。

私は胸にスマホを抱き締めたまま、駅から家まで歩いて

時々、LINE来てないかな！？って確かめて、来てなくて

また小さな端末を胸に抱く。

家に帰るとお母さんが夕飯を作ってて、匂いだけで「あー、お好み焼き」って分かった。

部屋で制服を脱ぎながら、やっぱりスマホが気になってチラチラ。

着替えてダイニングに座る時にも傍らにスマホを置いて、チラチラ。

「食事中にお行儀悪い！やめなさい！」ってお母さんに怒られても
「何か時間によってミッションがあるゲームがあるらしいなぁ。それ？」ってお父さんに見当違いな事言われても

やっぱり、チラチラがやめられない。

帰ったら連絡するって、相葉先輩は言った。

まだ帰ってないのかな...そんなに家、遠いのかな...

お風呂に入る時も、洗面所までスマホを持って行って

LINE来たらすぐに見たいから、今までマナーにしてたけど音が出るように解除した。

体洗ってても、髪を洗ってても、ずっと耳を澄まして
でも、音が鳴った気配は無くて

いつもより早めにお風呂から出て体を拭きながら見たスマホは、何の通知もしてなかった。

「...私の聞き間違いだったのかな...」

帰ったら連絡する...って、言ったんじゃなかったのかな...

もしかして、『連絡して』だった！？
相葉先輩の連絡先も貰ってるし、もしかしてもしかして、私、勘違いしてる！？

でも、確信が無いから自分から連絡するのは不安で服も着ずに洗面所でジッ...と液晶画面を見つめた。

その時、ティロリン♪って

軽快過ぎる音が手の中で鳴り響いた。

「うわっ...！」

ビックリして落としそうになったスマホを危機一髪でキャッチして、慌てて画面を見る。

「...先輩っ！」

『遅くなってごめんね！帰ってベッドに横になったら、知らない間に寝ちゃってた！』

胸がキューッてなる。

と、同時に先輩から見える訳でも無いのに自分が裸なのが妙に恥ずかしくなって

タオルで思わず体を隠した。