コイカゼ・ダイブ 3rd【ars M.A】 (ページ30)

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100.アイヲ・ウタオウ。ページ30

校舎の中はほんのりと薄暗くって、先輩の踵を踏んだ上履きがパコンパコンと音を立てる。

私達の他に誰も居ないのかな...って思ってしまうような、廊下。

だけど、校庭が近付くにつれてバンド演奏の音は大きくなって、誰も居ないなんてワケ無いって思い知らされる。

昇降口で靴を履きかえて校庭に出ると、ステージではまだ軽音部のバンドが演奏をしてる最中だった。

「すだち、まだだったみたいだね！良かったー」
「フフッ、ですね」

私と相葉先輩は、並んでステージを眺める。

「...あっ！」
「ん？どしたの、Aちゃん」
「あのバンド、山田くんのバンドだ」

ステージの真ん中で、山田くんがスタンドマイクを握って歌ってる。

「山田くん？」
「はい。何かトモちゃんにアタックしてる男の子なんですけどね？すっごい情熱的と言うか...押せ押せなんです」
「へー！やるね、トモちゃん！山田くん、カッコイイじゃん！」

山田くーん！って、相葉先輩が声援を送る。

他の生徒もつられたのか、山田コールが起きた。

その瞬間、山田くんはステージを飛び降りて観客の中から一人の女の子の手を取った。

「...えぇぇっ！？」
「うわっ！山田くん、やるぅ！」

「やだやだ！」って必死で抵抗してるのも虚しくステージに引っ張り上げられた女の子は、トモちゃんで

逃げようとするトモちゃんの腕を、山田くんはギュっと握って離さなかった。

「トモ！」
「何よっ！恥ずかしいから離して！」
「トモ、うるさい！」
「山田がうるさいんでしょ！」

真っ赤になったトモちゃんが、山田くんをキッと睨んだ。

「トモちゃんと山田くんは漫才でもしてんの？」
「...先輩、違うと思います...」

シーンとなった校庭に、山田くんの「トモ、ちゃんと聞いてよ」って静かな声が響く。

「俺、トモが好きだよ。冗談じゃないよ。いっつもフザけて言ってたけど、本気だよ？」
「...うるさいよ...」
「トモ、好き。付き合って。俺の彼女になって」

...ビックリした。

まさか、目の前でこんな場面を見せられると思ってなかった。

「...ズルイ、山田...」
「え？」
「こんなトコで告られたら、断れないじゃん...」
「...マジで！？良いのっ！？」
「うるさいっ！」

やっぱり真っ赤なトモちゃんは、逃げるようにステージを降りて

山田くんは「待ってー！」って追い掛けてった。

「愛だな」
「愛だね」

背後で声がして振り返ると

「あ、すだち」

二宮先生と大野先生が立ってた。