コイカゼ・ダイブ 3rd【ars M.A】 (ページ27)

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97.コミアゲル・ナミダ。ページ27

夕方になり肌寒くなってきたからか、相葉先輩はTシャツの上にグレーのパーカーを羽織ってたけど

履いてるミドジャーは、やっぱり裾を折ってふくらはぎの真ん中辺りまで上げてあった。

焼きそばを作ってた時には頭に巻かれてたタオルを今は首に引っ掛けた先輩が、私をジッと真ん丸な目で見る。

ドキドキして胸が潰れそうで、チェックのシュシュを着けてる手首をもう片方の掌でギュウっと握った。

「...あの...相葉先輩...」
「あっ...俺、行かなきゃ...」
「え...？」

さっきまで私を見てた目が横に逸れて、頭をポリポリと掻いた先輩が一歩づつ私に近付いて

すれ違う時に「翔ちゃんと一緒に帰る約束してて...」って、「ごめんね」って

そう、言った。

ギュって苦しくなる。

泣きそうになるのを、唇を噛んで我慢して

「相葉先輩！待って下さい...っ」

裏庭から校舎に戻ろうとしてる後姿に、きっと私、必死に声を掛けた。

先輩がビックリしたような表情で振り返って、立ち止まる。

「...櫻井先輩...、さっき帰りました...」
「え...」
「予備校あるから...って...帰る櫻井先輩に会いました...」
「...あ...」

気まずそうに俯いて、次の言葉を探してる先輩に

近付きたいのに、近付けなくって

私はその場に立ち尽くしたまんま。

「...私...何かしちゃいましたか...？」

涙がもう目の奥までこみ上げて来てて、でも絶対に泣きたくなくってグっと噛んだ唇が痛い。

「ううん、何も...Aちゃんは何もしてないよ」
「でも...」

でも、先輩が私を避けてるのはどんなに馬鹿な私でも気付くよ。

昨日の朝までは、あんなに優しく笑ってくれたのに...

「...俺、Aちゃんの邪魔になるかなと思って...」
「...へぇっ？」
「...え？」
「あっ...」

先輩の言葉があまりにも予想外過ぎて、変な声が出て思わず口元を手で押さえた。

「だって、Aちゃん...彼氏、いるんでしょ？」
「...へぇぇぇっ！？」

押さえてるにも関わらず、変な声を出し続ける自分の口が嫌になる。

「昨日、俺、見ちゃったんだよね。Aちゃんが、すっげぇイケメンと仲良くしてるの...」
「すっげぇ...イケメン...？」

誰...？山田くん？...は、トモちゃんにベタベタしてただけだし...

「ふわふわの髪で、オシャレで、すっげぇ大人の男って感じの...」
「...あっ！？」
「その人...」

相葉先輩は、ちょっと唇をへの字にして「彼氏でしょ？」って、首を傾げた。