コイカゼ・ダイブ 3rd【ars M.A】 (ページ23)

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93.チャンスハ・イツ。ページ23

「お水、いる？」

櫻井先輩がお水のピッチャーを持って、来てくれた。

「あ、はい！ありがとうございます」
「ね？旨くない？」
「美味しいです！凄いですね、相葉先輩って」
「でしょ？でもそれは本人に言わなきゃね」

空っぽになった紙コップにお水を注ぎながら、櫻井先輩が笑う。

「...はい」
「じゃあ、ゆっくりしっててよ。うちの料理人の見学でもしながらさ！」
「えっ！？」
「アハハッ」

朗らかな櫻井先輩の大きな笑い声に、相葉先輩が「翔ちゃん、サボんないで！」って叫んだ。

教室には、櫻井先輩目当てなのか、嫌だけど相葉先輩目当てなのかたくさんお客さんが居て

先輩達は、忙しそう。

「...今はやめとこ...」

こんな忙しそうだと、声を掛けるのも躊躇われる。

まだ勇気も出なくて、心構えも全然出来ずにいた私はちょっとホッとしたような変な気持ちで焼きそばを食べ終えて

「ごちそうさま」だけでも伝えたくて相葉先輩の所に行くと「美味しかった？」って、少し心配そうな表情で訊かれた。

「はい！凄く美味しかったです！先輩、料理出来るんですね」
「出来るってゆーか...焼きそばだけ得意なの」

そんな話をしてると「相葉！追加お願い！」って注文が入って、先輩は「じゃあ、またね！」って料理人に戻った。

後夜祭の事は何も言えなかったけど、やっぱり相葉先輩と話せたってだけで嬉しくってまたニヤニヤが止まらなくなった顔で歩いてると、キョロキョロしてる潤ちゃんとバッタリ会った。

「あれ？潤ちゃん」
「あ、A。焼きそばってどこでやってるの？さっき食ってる人見たんだけど」
「えっ！？3年A組...それね、先輩が作ってる...」
「おっ！？噂の？」

少年みたいに笑った潤ちゃんが「誘えた？」って、耳打ちして来る。

「...忙しそうだったから...」
「そっかー、でもまだチャンスはあるだろ」
「あるかなー...」
「大丈夫大丈夫！じゃ、俺行くわ」

また頭に乗った潤ちゃんの掌に安心してたら

歩いてった潤ちゃんの向こう側に調理用ボールを抱えた相葉先輩が、目を真ん丸にして立ってた。

そして、ちょっと俯いてこっちに歩いて来る。

「先輩...」

あ...今がもしかしてチャンス...？

「あのっ...相葉先輩」
「ごめん、キャベツ無くなっちゃったから調理室で切って来なきゃいけなくて...急いでるんだ、ごめんね」

それだけ言うと、先輩はパタパタと踵を踏んだ上履きを鳴らして

走って行った。