コイカゼ・ダイブ 3rd【ars M.A】 (ページ17)

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87.アマツブ・コロコロ。ページ17

「俺、美容師さんになりたいなって思って」

相葉先輩の口から出て来た言葉は、全然想像もしてなかったモノで

私は上手く反応できなかった。

「あれ？俺のイメージと違うかな？ニノちゃんには似合いそうだって言われたんだけどなぁ」
「あっ...あの、ビックリしてただけで...似合うと思います！」
「ホント？無理やり似合うって言わせたみたいになっちゃったね」

右頬をキュっと上げて、先輩が笑う。

「無理やりじゃないです...本当に似合うと思います。だけど、何で美容師さんなんですか？」
「自分の手で人を綺麗に出来るってすげぇなぁ、楽しそうだなぁって思ったから」

次の瞬間、先輩の手がスッと私の顔の横に来て

下ろしてる髪に触れた。

「Aちゃんの髪結んだり、編んだりしてて思ったの」
「え...」
「これを仕事にしたいなぁって。やりたいコト、見付けた！って」

スルスルと、先輩の長い指が私の髪の間を滑って

髪を滑り終わったその手は、今度は私の頭の上にポンと乗った。

「Aちゃんのお陰。ありがと」

小首を傾げて微笑む相葉先輩が、頭の上の手をポンポンと跳ねさせた。

「わっ...私は...何も...っ！してっ...！」
「ん？」
「何もして...ませ...っ」
「フフッ、ううん。Aちゃんと知り合わなかったら、俺、やりたいコトも分かんないままだったよ？」

全部が熱い

顔も、身体も、頭も...心も

ポツリ

そんな熱い私の頬に、落ちる雨粒。

それは一瞬で大雨に変わる。

「うっわ！降って来た！！そらジロー！！」

先輩が傘をポンっと広げて、私の腕を引っ張って傘の中に入れてくれた。

「やっぱ降ったね」
「...はい...」
「ちょっと濡れちゃったね」
「...大丈夫です！あのっ...大丈夫です...」

透明の傘の下で向かい合わせ。

背の高い相葉先輩を見上げると、綺麗な茶色の髪にコロコロと雨粒が滑ってるのが見えた。

「あ...先輩、髪が濡れてます」
「え？」

ちょっと背伸びをしなきゃ、先輩の頭には手が届かなくって

伸ばした手で、転がる雨粒をソッと払う。

「あ...Aちゃん？...えっと...」
「...あっ！！ごめんなさい！！」

何してんの、私！
何で先輩の髪触ってんの！？

恥ずかしくって、思わず俯く。

「ごめんなさい...」
「ううん...何か...俺ニノちゃんが言ってたコト、分かちゃったかも...」
「え？」
「えっ！？ううん！何でも無い！帰ろう帰ろう！」

ウンウンと頷いた相葉先輩と、雨の中を歩き出した。