コイカゼ・ダイブ 3rd【ars M.A】 (ページ1)

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71.ウラニワ・ミズヤリ。ページ1

今日もチェックのシュシュを手首に着けて、学校へ行く。

貰ったあの日から、ずっと毎日そうしてる。

あの日は、相葉先輩に結んで貰った髪をほどくのが、勿体なくて
先輩が触った髪を洗ってしまうのも、勿体なくて

なかなかお風呂に入れないまま12時を過ぎちゃって、お母さんに怒られた。

トモちゃんには、どうして髪に着けずに手首に着けてるの？って訊かれたけど、その理由は単純で髪に結んでしまうと自分では見えないから。

でも手首だったら、いつでも可愛いチェックが見える。

見える度にニヤニヤしちゃうから、私は割とニヤニヤして毎日を過ごしてる気がする。

トモちゃんがバイトを始めて急いで帰っちゃうようになったから、一緒に帰る事が減った放課後

日直だった私は、大野先生に日誌を出しに行ってそのまま帰ろうと昇降口に向かって廊下を歩いてた。

途中で裏庭の前を通る。

何となく、パブロフの犬状態で廊下の窓から裏庭を覗いてしまう。

「...あ」

花壇の前に立ってる、猫背な背中。

私の声に猫背が振り返る。

「ん...っ！？」
「あ...先生...」

振り返った二宮先生の口元には緩く挟まれた煙草が、モクモクと白い煙を伸ばしてる。

その手には、水やり用のジョウロがあってチョロチョロと水が出続けてた。

「先生、ここ喫煙所じゃ無いですよー？」
「ちょ...大坂！内緒な！？内緒！」
「えー...」
「マジで勘弁して、主任にバレたらちょー怒られる...」

パンツのポケットから出した携帯灰皿に吸い殻を押し付けて「見なかった事にしてよ」って、眉を下げて顔を顰める。

「オレ、怒られんの嫌いなのよ」
「自分は相葉先輩の事いっぱい怒るのに」
「先生が生徒を怒るのは仕事。先生が上司に怒られんのは不愉快」
「アハハッ！不愉快って！」

自分が悪いくせに、サラっとそんな事を言ってしまう二宮先生はやっぱり変な人。

「先生、こんな所で何やってるんですか？すぐそこに喫煙所あるのに」
「いや、見たら分かんだろ。花に水やってんだよ。当番なの忘れててさぁ」

面倒くせぇなー...って呟きながら、先生はまた花に水をやり始めた。

「何？オレが居たら駄目だった？」
「えっ！？」

顔だけをこっちに向けて、先生がニヤっと笑う。

「相葉と大坂だけの場所じゃねぇもん、ここ」
「は...！？」
「あ。相葉、今日はちゃんと朝から六時間目まで居たよ。寝てたけど」

ちゃんと教室に居るだけで成長だわ、ってまた笑った。

私は顔が熱くなった。