コイカゼ・ダイブ【ars M.A】 (ページ10)

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10.ドウキト・ハキケ。ページ10

お母さんに「明日、お弁当いらないから」って言ったら「何で？」って言われた。

それには答えずに「お箸新しいの買って来ててね」って言ったら「何で？」って言われた。

翌朝、お弁当はもちろん用意されてなくって「お箸、何色のが良い？」ってお母さんに訊かれたから先輩が着てるジャージの「緑」って咄嗟に答えてしまった。

だけど本当にお弁当を持って行かないのは、何だかすごく期待してるみたいで

もしかしたら相葉先輩の気まぐれなのかもしれないのにって

冗談かもしれないのにって思うと、この子そんなにパン奢って欲しかったのかななんて思われちゃったらどうしようって不安になって

朝からずっと緊張して、ってゆーかお昼休みは私どうしてたら良いの？教室に居たら良いの？ってゆー新しい不安まで沸いて来た。

「トモちゃん...吐きそう...」
「だめっ！今吐いたら相葉先輩に汚いトコ見られるよ！？」
「...うぅ...心臓が潰れそう...」

昼休み、昨日と同じように私の席まで来てくれたトモちゃんが緊張でヘロヘロになってる私の背中を擦ってくれる。

「相葉先輩...本当に来ると思う...？」
「来るよ！だって約束したんでしょ？昨日も言ってたし！」
「でもなぁ...」

何だか、不安過ぎて、緊張し過ぎて、涙目になって来る。

だって昨日先輩がここにやって来た時間は、もう過ぎた。

「もし相葉先輩が来なくても、私のお弁当分けてあげるから！」
「...トモちゃん...やっぱ吐きそう...」

お弁当を食べたり、友達と喋ってるクラスメイトの楽しそうなざわめきの中一人、私は潰れそうな胸を抱えて

何度も小さく息を吐き出してた。

昨日と同じように教室の空気が変わったのは、もう10回目の息を吐いた時。

「Aちゃん、お待たせー！」

緑のジャージ姿の相葉先輩が姿を見せた瞬間、吐き気はスーッと無くなったけど

泣きそうになってた目は涙を零しそうになったから、必死で我慢した。

「ごめんね、次の時間体育だから着替えてたら遅くなっちゃった！」
「いっ...いえ、大丈夫です...！」
「お腹減ったでしょー？購買行こ！あ、お友達は何ちゃん？」

相葉先輩がトモちゃんを見て微笑む。

「えっ！？私ですか！？...トモ...です」
「トモちゃん、今日はAちゃん借りて良いかな？」
「もちろんっ！！どうぞっ！！」

トモちゃんが、大袈裟に両手を前に差し出す。

「じゃあ、行こうか」
「はい...」

いってらっしゃい！ってトモちゃんが笑った。